OneH

主にトレーニングとダイエットのブログ。それとプリンス。

アルバム「Webcome 2 America」から、3曲目の「Born 2 Die」を取り上げます。

それにしても、「Webcome 2 America」は素晴らしいアルバムです。とはいえ、一口に素晴らしいといってもこれまでの作品とは衝撃の質が違うと感じます。この点が上手くまとめられているレビューはないかと世の中のレビューに色々と目を通してみたのですが、それとは別に一部の批評を読んで少し気になるところがありました。それは、プリンスの批評における「プリンス不在問題」です。

そういった批評では、他人の名前を当てはめることで作品の説明が済まされ、まるでプリンスの存在がないかのように扱われます。今回のアルバムに関して Rolling Stone 誌などの批評からいくつか名前を拾うと、P ファンク、カーティス・メイフィールド、エルヴィス・コステロ風のビーチロック (オルガン入り)、ボン・ジョヴィ風パワーバラードのゴスペル R&B 再構築、それにスライ & ザ・ファミリー・ストーン等々、といった具合になります。

私にはこういった類の批評は、コーヒーに喩えるならば、容器に抽出されたコーヒーには口を付けずに、フィルタに残った粉の方だけをモソモソ食べるような滑稽な行為に映ります。別にフィルタに残った粉を吟味するのはいいのですが、味わうのはそっちじゃないだろうに、と思います。たとえどんなに他人の名前を足し合わせようとも、それがプリンスの作品になることは決してありません。それだけでは容器に注がれたコーヒーまで到達しないのです。


少しひねくれた前置きが入りましたが、今回の曲は「Born 2 Die」です。はい、あの二言目には「カーティス・メイフィールドみたいだ」と形容される曲です。実際にこれはカーティス・メイフィールドをインスピレーションに作られた曲で、YouTube の説明欄にもこの曲に関するエピソードが記載されています。そんな経緯から、私も「Superfly」などカーティス・メイフィールドの作品を色々と聴いてみました。しかし聴き比べた結果、私が強く感じたのは、「違う。スタイルは寄せているけれど、やっぱり違う」ということでした。確かにプリンスとしては色々と珍しい感じがする曲ですが、背景の情報を念頭に置いたうえでも、私がこの曲から第一に感じるのはあくまでもプリンスであることに変わりはありませんでした。

アルバム「Welcome 2 America」は全体的に落ち着いた曲が多く、女性ヴォーカルに主役を譲る場面もあり、プリンスの存在感が抑えられている面もありますが、それでもプリンスを強く感じさせるヴォーカルやサウンドが随所でみられます。この「Born 2 Die」では、まず第1ヴァースの「from the hustle of the streets」の後、ファルセットヴォーカルの間に突然「Oh oh」と地声レンジで悶えるような声が響き渡るところで私はドキリとします。似たような展開としては「Kiss」の第2ヴァースで「U can't be 2 flirty, mama, I know how 2 undress me」の後、急に地声になって「Yeah」と言うのを少し思い出しますが、この「Oh oh」はそれ以上に注意を惹きます。

kiss-yeah

続いて「That's when she lost her... virginity」と息を潜めながら言葉を発するところは、「Wasted Kisses」での「Small dark room / that's where I let U smother」の歌い方と重なります。曲の雰囲気や最後に人生の終わりを暗示させるようなダークな内容もこの曲と通じるところがあります。実際、私が「Born 2 Die」を聴いて真っ先に思い浮かべた曲は「Wasted Kisses」でした。

この曲の歌詞は一つのストーリーになっており、何やら違法な行為をして生きる女性が歌われます。曲を通して女性の名前は明かされません。最後、窓から転落する場面でもなお、皆が「彼女」と距離感のある呼び方をするのがストーリーの痛ましさを際立たせています。そして周囲が騒然とする中、「死ぬために生まれた」と「すべてがうまくいく」がバックで交互に繰り返されます。「Sign O' The Times」のコーラスで歌われるラインとも重なるように感じますが、情景がリアルに描写される中では、この繰り返しはとても不気味に響きます。

Some say a man ain't happy unless a man truly dies
人は本当に死なない限り幸せにはなれないと言う

タイトルの表現が繰り返される時点で不穏な印象を与え、ここまでダークな陰を持った曲はプリンスには珍しいように思うのですが、音楽そのものは耳に心地良く、不気味さと気持ち良さの間で感情が交錯します。普通の感覚ではお蔵入りにされたのが信じ難いほど音の作りも細やかに行き届いており、音を追いかけながら聴いても感嘆を覚えます。アルバムは非常に良くバランスが取れているため、この曲のダークさに作品全体のトーンが支配されるようなことはありませんが、アルバムの中でも存在感があり、間違いなく傑出した曲といえます。


Here she come
She's a bad girl
One hit and she'll get U high
彼女が来たよ
悪い女さ
一発で君をハイにする

Born 2 die (x6)
死ぬために生まれた
死ぬために生まれた
死ぬために生まれた

She sells everything from A 2 Z
Anything just 2 keep her free
From the, from the hustle of the streets
She left the church a long time ago
Said they couldn't teach
What they did not know
That's when she lost her virginity
彼女は何であろうとお構いなしに売る
ストリートの喧騒から免れるためなら
教会はとうの昔に去っている
あそこは自分達の知らない事は
教えられないからと彼女は言った
そして彼女は純潔を失った

Now she's pimpin' every vato
From New York 2 L.A.
Ask her why she do that thing
She says it's always been that way
Jump back Jack
U might be next
If U try 2 cut mama's cake
(What the deal, daddy?)
Ask her what the deal is
This is what she say
そして彼女は男を利用し渡り歩く
ニューヨークからLAへ
どうしてなのか訊いてみれば
いつだってそうだったからと言う
急いで離れた方がいい
ママのケーキに手を出せば
次は君になるかもしれない
「調子はどう、ダディ?」
どういうことかと言わせたら
彼女はこう言うのさ

Born 2 die, born 2 die
If U ain't livin' right
U know U're born 2 die
Better watch out
She getcha, getcha
So high, so high
U know everybody's getting
So high
(I gotta get my hustle on)
死ぬために、死ぬために生まれた
正しく生きていなければ
そう死ぬために生まれた
気を付けなよ
彼女は君をとことんハイにする
そう、誰もがハイになる
「頑張っていかなきゃ」

She runs six streets in Oakland
Clear down into Frisco Bay (Ooh)
Before she concerned if crime does pay
Ask her when
She saved from the first day
What she really needs is
2 get back 2 the truth
Before we up, before we go astray
Ask her what the deal is
(What the deal, daddy?)
This is what she'll say
彼女はオークランドを6区画
フリスコ・ベイまでシマにする
彼女に関する限り犯罪は儲かる
それも最初からだという
本当に彼女に必要なのは
真実に立ち戻ること
気付くと僕らが道を踏み外す前に
どういうことかと言わせたら
「調子はどう、ダディ?」
彼女はこう言うのさ

Born 2 die, born 2 die
If U ain't livin' right
U surely born 2 die (Getcha...)
Look out, getcha getcha
She'll getcha so high, so high
They say
Nothing good happens after midnight
Getcha, getcha so high
Bye-bye
死ぬために、死ぬために生まれた
正しく生きていなければ
そう、死ぬために生まれた
気を付けるんだね
彼女は君をとことんハイにする
真夜中過ぎればロクな事は起こらない
君をとことんハイにする
サヨナラ

Ah yeah
(Born 2 die)
Getcha, getcha
So, so high (x3)
Getcha, getcha
So high, so high
Getcha, getcha so high
Getcha, getcha
So high, so high

(Born 2 die)
Yo, what happened?
(Everything's gonna be alright)
Girl, she fell from third story window
What?
Yes
(Born 2 die)
Oh my God
Why is there always something going on
Honey, I don't know
(Everything's gonna be alright)
I think she'll be cool
But, oh my goodness, girl
Look at her
(Born 2 die)
Oh no
So sad
They're puttin' her on the gurney right now
I hope she'll be alright"
Where?
Does anybody know what happened?
Girl, she fell
She fell
(死ぬために生まれた)
ねえ何が起きたの?
(すべてがうまくいくわ)
彼女が3階の窓から落ちたの
なんですって!
そうなのよ
(死ぬために生まれた)
なんてことなの
何でこんなことばかり起きるんだろう
(すべてがうまくいくわ)
大事に至らないといいけど
ああ、なんてことなの
ねえ見てよ
(死ぬために生まれた)
ああ
可哀想に
今担架に乗せられてるわ
大丈夫だといいんだけど
どこなの?
何が起きたの?
彼女が落ちたのよ
彼女が落ちたの

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アルバム「Welcome 2 America」は本当に素晴らしいです。アルバム2曲目の「Running Game (Son Of A Slave Master)」を取り上げます。

アルバム2曲目の「Running Game (Son Of A Slave Master)」は1曲目のシリアスなタイトルトラックの雰囲気を受け継ぎ、物憂さを醸し出しつつも、スムーズで心地良いサウンドに仕上げられています。ここではプリンスは一歩引いて、リードヴォーカルを主にシェルビー・Jに譲っています。

歌の内容としては、アーティストを利用して利益を搾取する音楽業界への批判が歌われます。アメリカの人種問題や社会問題も絡められ、歌詞からは2001年の「The Rainbow Children」からの流れも感じます。この曲が書かれた2010年頃は、Apple の iTunes Music Store 勢いを伸ばし、音楽業界に大きな変化が起きていた時期です。プリンスは業界の流れに抵抗し、iTunes 等に自身の作品を渡すことを拒否し、YouTube へのアップロードも禁じていました。そして、遡ること2007年にアルバム「Planet Earth」の初回リリースをイギリスの新聞紙の無料付録で出すというサプライズを実行したのち、2010年にはまたしてもアルバム「20TEN」をイギリスの Daily Mirror 紙等、欧州の新聞紙や音楽誌の付録としてリリースしました。プリンスは「20TEN」のリリース時、Daily Mirror 紙に次のように語っています。

The internet's completely over. I don't see why I should give my new music to iTunes or anyone else. They wont pay me an advance for it and then they get angry when they cant get it.
インターネットは完全に終わった。なぜ自分の新作を iTunes や他の配信サービスにあげなければならないのか僕には分からない。彼らは事前に対価を払わない上に、作品が手に入らないと怒り出すんだ。

インターネットと音楽業界の変化に関連してもうひとつ、2011年4月13日、George Lopez の「Lopez Tonight」出演時のインタビューをリンクします。

上の動画で6分33秒頃からのやりとりを以下に訳します。単純な解決策を導き出すことはできない話題なのでしょうが、プリンスはアーティストの立場から業界の変化や問題について触れています。それにしても、レコーディング依存症のリハビリで休息期間を取っていると言っておきながら、陰ではしっかりとこんな凄いフルアルバムを作っていたというのが、もう本当にプリンスです。

George Lopez: あなたの家の保管庫には一千もの楽曲があるということです。毎日のように曲を書いて、それがあなたの暮らしだと。あなたは音楽を作ることに心血を注いでいます。

Prince: ええ、実は僕は今レコーディングのリハビリ中なんです。ちょっと休みを取っています。業界では大きな変化が起こっていますし、とりあえずしばらくは……

Lopez: 大きな変化が起こっていますね。インターネットは音楽の貢献に役立っていると思いますか?

Prince: インターネットは音楽を売る側の人たちには役立っているでしょうね。でもアーティスト達には従来のようなお金をもたらさなくなりました。そして我々には、無料で手に入れられるものについては価値を重んじない傾向があります (we tend not to value things we can get for free)。音楽を何か別なものに置き換えて、それを無料で手に入れたと考えてみれば、僕の言わんとするところが分かるんじゃないでしょうか。

Lopez: 私たちが子供の頃は、レコード屋さんに行ってはレコードを一枚一枚めくりながら漁って、思いがけないものを見つけては驚いたりしたものです。そこにはレコードのにおいがあり、レコードの感触がありました。ああいったものが懐しいですか?

Prince: 僕は自分のレコードは全部持っています。ええ、こっちは盗まれませんでした。

Lopez: あなたはきっと大層なレコードコレクションをお持ちで、音楽はレコードで聴く方が好きなんじゃないかと想像します。

Prince: ええ、僕はレコードを聴いて育ってきました。我々はそれを当然のように思ってしまいがちですけど、いま僕がここにいられるのは、60、70、80年代のゴールデンエイジの音楽があったからです。その時代ではアーティスト達は自分で楽器を演奏し、自分で曲を書き、アイク&ティナ・ターナーやウィルソン・ピケット、ジェームス・ブラウンのような人達と並び、歌って演奏しなければなりませんでした。僕が言いたいのはつまり、とにかくちゃんとやらなきゃいけないってことです。

Lopez: あれだけ沢山の曲があって、忘れたりとかは、当然ながら自分の曲の歌詞を忘れることはありませんよね。

Prince: いや忘れますよ。

Lopez: ええ、そうなんですか?何を言っているのか、言葉がどっから出てきたのか分からないようなことになったり。

Prince: ええまあ、新しい言葉のように聽こえたり。

Lopez: でも他の人たちはあなたの曲を歌います。実際に声に出して歌ったりして、そういうのは……。

Prince: ファンが僕の曲を歌うのは構いません。問題なのは業界が音楽をカバーする時です。音楽をカバーするということは、元のバージョンが存在しなくなるということでもあるんです。人々はしばしば僕がシネイド・オコナーやチャカ・カーンの曲を演っていると勘違いします。実際に曲を書いたのは僕なのにもかかわらずです。僕の友人であればそういったことをするのは構いません。ですが一方で強制実施権の法律 (compulsory license law) というものがあります。これにより、アーティストはレコード会社を通して、他人の音楽をその人の承諾なしで思うがままに使用できるんです。これは書籍や映画など他の芸術形態にはないものです。例えばドラマの「ロー&オーダー」にはひとつのバージョンしかありません。

Lopez: そうですね。

Prince: ですが「Kiss」や「Purple Rain」にはいくつかの違うバージョンがあります。

Lopez: 確かに。音楽のバージョンはひとつであるべきです。

Prince: そう思うでしょう……?

人は無料で手に入れられる物の有り難みを忘れてしまう、というのは真理で少しドキッとします。昔からのプリンスファンならば、YouTube でプリンスを聴くことができなかった時代を誰もが覚えているはずです。複雑な問題はありますが、改めて深い有り難みを感じつつこの曲を聴いています。


How many gats in the slacks be showing'?
Betcha that the main downtown be knowin'
Wacks turn 2 beef when the gangsters meet
Son of a slave master keeping it goin'
Goin' (x6)
ズボンから何丁の銃が覗いてる?
メインダウンタウンじゃいつものことさ
ギャングスターがかち合うと始まる小競合い
奴隷の主人の息子はいつものやり口さ

How much do U want 4 that real dope beat?
Another A&R man, lyin' through their teeth
Son of a slave master, meet and greet
There goes the publishing and
U're back on the street
Back on the street
そのイカしたビートにいくら出したらいい?
またレコード会社からの使いがその口から嘘を吐く
奴隷の主人の息子にお目通り
そうして君は版権を取られストリートに後戻り

25 thousands like selling it free
Seems like a lot next 2 poverty
How much U really want 4 all them beats?
Son of a slave master keeping it goin', goin', goin'
2万5千ドルなんてタダで売るも同然
でも貧困に喘ぐ者には大金に見えるもの
実際そのビート全部でいくら欲しいんだ?
奴隷の主人の息子のいつものやり口さ

All the gates of Henry uncovered your past
Checkered like a NASCAR flag moving 2 fast
Betcha if U had your way
U'd turn back the hourglass
What an A-S-S
ヘンリーのゲートが過去を全て暴く
目紛しくはためくチェッカーフラッグだね
もしも思い通りにできるなら
君は砂時計を元に戻すだろう
呆れる他ないね、ハハ

Son of a slave master keeping it goin', goin', goin'
奴隷主人の息子のいつものやり口さ

Don't come 2 the party
Unless U bring somebady
Somebady that wants 2 dance
Somebady that wants 2 make sweet romance
We still got...
Mad love 4 ya
Even though, even though
Really don't know ya
同伴者を連れてこないなら
パーティには来ないでおくれ
踊りと甘いロマンスがお好みの同伴者をね
僕らにはまだ……
君への愛情が残ってる
たとえ、たとえ
君のことはよく知らなくてもね

Black on black crime
Abel and Cain
U would think high yellow would be a shade
21st Century
It's still about greed and fame
I'm about, I'm about 2 go insane
About 2 go insane
Somebody call 9-1-1
Then leave his name leave his name
黒人同士の犯罪
アベルとカイン
ハイ・イエローは色合いに思えるだろ
21世紀、未だ欲望と名声の世の中さ
頭が、頭がおかしくなりそうだ
誰か911にかけるんだ
そしたら彼の名前を伝えてくれ

Son of a (x3)
Son of a slave master
Son of a (x2)
Son of a slave master
Still runnin' game
Yeah, she's still runnnin' game U'all
Yes she is, running' game
Still runnin' game, U'all
Runnin' game(x4)
奴隷の主人の息子
奴隷の主人の息子
未だに騙し取っている
そうさ、未だに騙し取っている

歌詞に出てくる言葉で Wikipedia に説明があるものをいくつか以下に引用します。

  • ヘンリー・ルイス・ゲイツ・ジュニア、Henry Louis Gates, Jr. ... アメリカ合衆国の文学評論家、教授、歴史家、映画製作者。アフリカ系アメリカ人アカデミズムの第一人者で、ケンブリッジ大学で黒人初の博士号を取得。1980年代には、19世紀初頭から20世紀半ばまでの歴史に埋もれていた多くのアフリカ系アメリカ人による文学作品や記録を掘りだし収集することで「文学考古学者」としての評価を得た。
  • カインとアベル、Cain and Abel ... 旧約聖書『創世記』第4章に登場する兄弟。アダムとイヴの息子たちで兄がカイン、弟がアベルである。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教などの神話において人類最初の殺人の加害者・被害者とされている。
  • High yellow, occasionally simply yellow (dialect: yaller, yella), is a term used to describe a light-skinned person of white and african ancestry. It is also used as a slang for those thought to have "yellow undertones". The term was in common use in the United States at the end of the 19th century and the early decades of the 20th century, and is reflected in such popular songs of the era as "The Yellow Rose of Texas". It is now considered offensive and outdated.
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「Welcome 2 America」がリリースされてからもうすぐ1週間、まだあまり聴けておらずビデオもまだ未視聴なのですが、アルバムのあまりの素晴らしさに驚いています。どれほどの称賛の言葉をもってしてもこのアルバムの素晴らしさを語るには全く足りないように思えます。公式の Podcast を聴きましたが、プリンスはなぜこれほどの素晴らしいアルバムを作っておきながらリリースしなかったのか、その理由は関係者には語っていないようです。

まだ未消化の状態なのですが、このアルバムから「1000 Light Years From Here」を取り上げることにします。「1000 Light Years From Here」は私がアルバムを一聴して最も強い感銘を受けた曲です。その感銘は、この曲を聴くたびに強さを増していくように思えます。

このアルバムでは人種問題や社会問題が大きなテーマになっています。この曲のベーシック録音が行われたのは2010年3月11日 (PrinceVault のリンク)で、サブプライム住宅ローン危機とそれを発端とする世界金融危機が深刻な社会問題となっていた時期です。「underwater」は住宅ローンの返済額 (mortgage balance) が住宅価格 (home value) を上回っている状態を指して使われる言葉であり、第1ヴァースの冒頭では、黒人の低所得者層が「underwater morgage / 水面下住宅ローン」に苦しむ状況が歌われているように受け取れます。

We can live underwater
It ain't hard when U've nver been a part
Of the country, on dry land
僕らは水面下でも生きられる
そんな苦しいことじゃない
この国で一度も
陸に上ったことがないのだから


プリンスの自叙伝「The Beautiful Ones」のイントロダクションで、共著者のダン・パイペンブリング (Dan Pipenbring) は、本を出すまでの経緯やプリンスとの様々なやりとりを回想しています。その記述の中で、プリンスがダンに次のように質問する場面が出てきます。

"Can we write a book that solves racism?"
「僕らに人種差別を解決する本が書けると思う?」

そこから話は広がり、プリンスは自身が子供の頃に経験したことをダンに語ります。「Sacrifice Of Victor」でも歌われる、強制バス通学 (差別撤廃に向けたバス通学Disegregation busing) の話が出てきます。以下は「Sacrifice Of Victor」の歌詞です。1967年というとプリンスは9才です。

1967 in a bus marked public schools
Rode me and a group of unsuspecting political tools
Our parents wondered what it was like to have another color near
So they put their babies together 2 eliminate the fear
We sacrifice - yes, we did
Fighting one other, we sacrifice, we we did
All because of color
1967年、僕らは知らないままに政治の道具にされ
公立学校のスクールバスに乗せられた
親たちは違う色をそばに近付けたらどうなるだろうと思い
恐怖を取り除くために子供たちを一緒にした
僕らは犠牲 ─ そう、犠牲になった
互いに争い合って
僕らは犠牲 ─ そう、犠牲になった
全ては色のために

プリンスはこの政策でリッチな白人の学校に通学させられることになりました。そこでNワードで罵ってきた相手に手を出したことを思い出し、ダンにこう語ります。

"I felt I had to. Luckily the guy ran away crying. But if there was a fight - where would it end? Where should it end? How do you know when to fight?"
「そうしなければならないと思ったんだ。その時は幸いなことに相手は泣いて逃げていった。だけどもしケンカになっていたとしたら、どこで終わりになる?どこで終わりにすべきなんだ?どんな時に戦うきべきか、どうやったら分かる?」

この問題への答えはどこにあるのでしょうか。そして解決の道があるとすれば、どれくらい先にゴールがあるのでしょうか。

Wouldn't U rather have me near?
Or 1000 light years away from here
僕がそばにいる方がいと思わない?
それとも一千光年離れた方がいい?

ここから一千光年の先。物理的な話をすれば、それは決して到達することのできない距離です。心を通わせ、分かり合うことなど不可能だと信じ込まされても仕方ないくらい遠く離れているように思えます。しかしそれは真実なのでしょうか。いいえ、そんなはずはありません。プリンスはこの曲ではっきりとそう歌っています。


We can live underwater
It ain't hard when U've nver been a part
Of the country, on dry land
We used 2 be smarter
We taught 'em what they know
And now got 2 show
What it means 2 be Amereican
僕らは水面下でも生きられる
そんな苦しいことじゃない
この国で一度も
陸に上ったことがないのだから
かつて僕らはもっと賢かった
僕らは彼らに教えたのさ
だからいまこそ示すんだ
アメリカの民であることの意味を

Good life, liberty, innovation
Every child, no matter what color
Getting an education
Now life in the hood is nothing 2 fear
1000 light years away from here
良い生活、自由、革新
全ての子供が色の関係なしに教育を受ける
もうここでの生活に何の不安もない
ここから一千光年離れた先

1000 light years from here
1000 light years from here
I'm talkin' 'bout a peaceful revolution
1000 light years from here
1000 light years away from here
1000 light years from here, come on
1000 light years from here
We need a spiritual resolution
1000 light years from here
ここから一千光年の先
ここから一千光年の先
これは平和的な改革さ
ここから一千光年の先
ここから一千光年離れた先
ここから一千光年の先
ここから一千光年の先
精神的な志を持つことさ
ここから一千光年の先

U can dream in color
When U let go of the proverbial
U got 2 crawl before U walk
I told U so
Listen 2 me now brotgher
Like the motion of the stars we are
So U might as well come on
Let's go (stop talking)
色つきの夢を見ることもできる
「歩く前にハイハイを覚えねばならない」
なんて常套句に囚われなければね
恒星の運動のようなものさ
無駄にするのは惜しいだろう
さあ行こう

U may been dreaming about
a new world order
But it's just a nightmare
if we still got borders
Wouldn't U rather have me near?
Or 1000 light years away from here
君は新しい世界秩序のことを
夢見ているかもしれない
けれども国境がある限り
それは悪夢にしかならない
僕がそばにいる方がいと思わない?
それとも一千光年離れた方がいい?

1000 light years from here, come on
1000 light years from here
An agreed-upon resolution
1000 light years from here
ここから一千光年の先
ここから一千光年の先
賛同を得られた志
ここから一千光年の先

Why would God make Heaven so far away?
With a whole world of His children
Cryin' 2 Him every day
Maybe it's time we all stop the rain
Or I'm just saying
なぜ神様は遥か遠くに天国を作ったのだろう?
こちらの世界では彼の子らが
毎日懇願の叫びをあげている
そろそろ皆で雨を止めるべきじゃないかな
まあそう言ってみただけさ

Ah ah ah ah Ooooo (x3)

If U are sick of cryin'
And tired of tears
Then close your eyes and open your ears
Listen 2 the music
Listen 2 the song
Listen 2 your heart
Is that so wrong?
Stop lookin' in the mirror
It's nothing 2 fear
Your salvation is near
1000 light away years from here
泣くのはもう沢山ならば
涙はもう沢山ならば
それなら目を閉じて耳を開こう
音楽に耳を傾けて
歌に耳を傾けて
自身の胸に耳を傾けよう
そんなに間違ったことかい?
鏡を見るのは止めるんだ
怖がることなんてない
救済はすぐそばさ
ここから一千光年離れた先

1000 light years from here
It's here, it's here
1000 light years from here
If U want it 2 be
1000 light years from here, come on
1000 light years away from here
1000 light years from here
So whatcha need 2 do U'all
1000 light years from here
1000 light years from here
U need 2 stop lookin' ourside yourself
1000 light years away from here
And just, and just, just clap your hands
1000 light years from here
I don't understand
1000 light years from here
Whey they keep sellin' lies
1000 light years from here
1000 light years away from here
And U keep buyin'
1000 light years away from here
When U could live forever
1000 light years from here
Without even trying
1000 light years from here
No more dyin'
1000 light years from here
No more...
君が望むのなら
それはここにあるんだ
だからやらなければならないのは
自身の外に探すのは止めることさ
そして、そして、そして手を叩こう
僕には理解できない
なぜ嘘が説かれ続けているのか
なぜ嘘を受け入れるがままなのか
永遠に生きられるのならば
試そうともしないで
もう死ぬこともない
もうないんだ

1000 light years from here (x6)
1000 light years away from here
1000 light years from here (x3)
1000 light years away from here
1000 light years from here (x3)
So far away
1000 light years away from here
So far away from here
遥か遠く
ここから一千光年離れた先
ここから遥か遠く

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