OneH

主にトレーニングとダイエットのブログ。それとプリンス。

少しずつ書いている、私の選ぶ曲シリーズをいきます。今回は10分以上に及ぶ大曲「Crystal Ball」です。1986年、プリンスはこの曲名を冠した3枚組アルバム「Crystal Ball」を発表することを望みますが、3枚組というボリュームのため、販売への支障が生ずることを懸念するワーナーは発売を渋り、プリンスはこの作品の発表を断念します。一部の曲は1987年の2枚組アルバム「Sign O' Times」に収録されますが、曲としての「Crystal Ball」は保管庫行きとなります。後の1998年に、この曲は未発表曲を寄せ集めたアルバム「Crystal Ball」(1998年) にてオフィシャルリリースされましたが、それまで実に10年以上も未発表のままでした。

プリンスは、知れば知るほど驚かされるアーティストですが、この時期のプリンスは、その最たるものだと思います。1986年の「Parade」から1987年の「Sign O' The Tiems」までの未発表アルバム群「Dream Factory」・「Camille」・「Crystal Ball」や、Madhouse などのサイドプロジェクト、他アーティストへの楽曲提供などを知るにつけ、「果たして一人の人間がこれほどの能力を持つというのは有り得るのか?」と、ただただ驚愕します。

個人ブログなので普通に書いてしまいますが、これまでに数多くのプリンスの未発表曲がブートレグで流出しています。そしてその中でも、とりわけ突出したオーラを持っているのが、この時期の未発表曲です。この時期の未発表曲を聴くと、まるでファミコンゲームで表面をクリアした後に、それまで存在が隠されていた裏面に足を踏み入れるような感覚がします。色違いの敵が登場してきて、しかも表面よりも敵が強くて、ワクワクする感じです。

私にとって、そんな裏面に潜む裏ボスが、10分以上の大曲である、この「Crystal Ball」です。


私にはこの曲をきちんと語れるだけの能力がないので、曲の説明は簡単に済ませます。この曲は、ファンキーで、複雑で、ちょっとスプーキー (おどろおどろしい) な感じの曲です。美しいクレア・フィッシャーのオーケストラと、バックボーカルのスザンナ・メルヴォインを除き、他の全ての演奏やノイズはプリンスによるものです。

曲はキックドラムがリズムを刻むイントロから始まります。あたかも嵐が起こる前触れのように、様々なノイズや断片的なオーケストラサウンドが代わる代わる登場します。1分35秒にメインのボーカルパートに入ってからは、曲は少しずつビルドアップしていき、4分頃からの1分間は、様々な楽器やノイズが出揃って圧巻の勢いになります。5分頃からは少しユーモラスなアレンジになって、盛りのついた猫の鳴き声みたいな音も出てきます。そして後半以降は、変幻自在に様々な展開をします。北斗の拳でいうと、まるでラオウと闘ったときの雲のジュウザのようになります。南斗五車星の一人、雲のジュウザは、この世に己の魂を捨て、自由気ままに生きていました。しかし、南斗六星最後の将の正体を知り、命を捨てる覚悟で覇者ラオウの足止めを買って出ます。

(ジュウザは不敵にも恐れを見せずにラオウと対峙し、無数の蹴りを放ちます)
ジュウザ: さすがだラオウ! ほかの男なら最初の一撃で死んでいる!!
ラオウ: むう… これほど変幻自在のけり… みたこともないわ!!

hokuto-13-juza-vs-raou-1
hokuto-13-juza-vs-raou-2
hokuto-13-juza-vs-raou-3

曲は8分30秒頃にいったんスローダウンします。スザンナ・メルヴォインの声が、お化けに取り憑かれたレコードのように、不気味に響きます。私はこの部分がすごく好きです。

I don't know, I have 2 ask my mommy 1st
分からないわ、まずママに聞かないと・・・

そして曲はメインのボーカルパートの繰り返しに戻り、10分30秒頃に曲は終了します。


余談ですが、私はこの曲のイントロを聴いていると、なぜか一昔前の米国のコメディドラマ「Friends」の、シーズン 4 エピソード 7 「The One Where Chandler Crosses The Line」からのワンシーンを思い出します。登場人物のロスには実は隠れた音楽の才能があり、ロスが皆の前でそれを披露する・・・というシーンです。

Ross: Here we go.
さあいくよ。

(弾きかけて止める)
Y'know, I've-I've never played my stuff for anyone before, so it's important that-that you understand it's about communicating very private emotions.
あの、僕これまで自分の音楽を誰にも聴かせたことがないんだ。だから君たちには、この音楽が極めて私的な感情を表現するものだということを、前もって理解しておいてほしいんだ。

(またもや弾きかけて止める)
Y'know, umm, you should-you should think of umm, my work as wordless sound poems.
あの、僕の作品は、こう捉えてほしいんだ。これは言葉のないサウンド・ポエムだと。

(またもや止める)
That's what I'm...
それが僕の・・・

Chandler: (interrupting) Oh my God! Play!
(さえぎって) 分かったからさっさと弾いてくれよ!

すみません。改めて見直してみたら、想像以上に関連性がなくてびっくりしました。でも、"言葉のないサウンド・ポエム" だなんて結構良いことを言っています。


この曲の歌詞は私には意味がよく分からない部分も多いのですが、「Sign O' The Times」と方向性は少し似ていて、1980年代の当時の世相を反映し、世界情勢が混沌とし、先行きの見えない社会において、愛を説く・・・といった具合だと思います。

従来、ネットで見つかる後半の歌詞は不正確なものばかりだったのですが、より意味の通るものに修正して公開してくれた方がいて、それをコピペさせていただきました。でもやっぱり訳すのは困難なので、一部を雰囲気で訳すだけに留めておきます。

また、オフィシャルでリリースされたバージョンはエディットされており、フルバージョンではありません。下に載せた歌詞の後半の一部は、エディットされたオフィシャルバージョンには登場しません。単なる繰り返しではなく一度しか登場しないユニークなパートなのに、どうしてプリンスはフルバージョンを発表しなかったのだろう、プリンスはなんて勿体無いことをするんだろう、と思っていたのですが、princevault.com を確認したら、1986年に発表されるはずだったバージョンもこれ同じだと書かれていました。でもやっぱりオフィシャルがフルでないというのは勿体無いです。

Expert lover, my baby, U ever had a crystal ball? {repeat}
Ooh, expert lover, my baby, U ever had a crystal ball?
Expert lover, my baby, U ever had a crystal ball?
Ooh-ah-ooh
Ooh
エキスパート・ラヴァー、マイ・ベイビー、クリスタル・ボールは手に入れた?
エキスパート・ラヴァー、マイ・ベイビー、クリスタル・ボールは手に入れた?

As bombs explode around us and hate advances on the right
The only thing that matters, baby, the love that we make 2night
As little babies n make-up terrorize the western world
The only thing that matters, baby, is love between a boy and girl
四方で爆弾が爆発し、右手では憎悪が歩を進める
大事なものはただ一つ、今夜、僕等が作る愛
化粧をした小さな赤子達が西洋社会を脅かす
大事なものはただ一つ、男の子と女の子が作る愛

Oh expert lover, my baby, have U ever had a crystal ball?
Undercover, no maybe, all 4 fun, fun 4 all
Ooh
エキスパート・ラヴァー、マイ・ベイビー、クリスタル・ボールは手に入れた?
内緒にしようか、でもやっぱり、全ては楽しみのため、楽しみは全てのため

I can't remember my baby's voice cuz she ain't talkin' no more (Oh)
Only the sound of love and prayer echo from the yellow floor (Oh)
Yellow floor, huh
僕のベイビーの声が思い出せない、彼女はもう話さないから
黄色い床で、ただ愛と祈りの音がこだまする
黄色い床で

She's sayin', "Dear Jesus, save us from temptation
Dear Jesus, save us from hell
Save us from the madness that threatens us all
Can U hear us? It's hard 2 tell
N Ur name we pray"
彼女が言う
ああイエス様、私達を誘惑から救って下さい
イエス様、私達を地獄から救って下さい
私達を脅かす狂気から救って下さい
聞こえますか?届いていますか?
あなたの名のもとに祈ります

Expert lover, my baby, U ever had a crystal ball?
Undercover, no maybe, all 4 fun, fun 4 all
Ooh-ah-ooh
エキスパート・ラヴァー、マイ・ベイビー、クリスタル・ボールは手に入れた?
内緒にしようか、でもやっぱり、全ては楽しみのため、楽しみは全てのため

As soldiers draw swords of sorrow (Oh)
My baby draws pictures of sex (Yes she does)
All over the walls n graphic detail - sex! (Oh)
兵士達が悲しみの剣を抜くと
僕のベイビーは性行為の絵を描く
壁の至るところに、細部まで生々しく!

Everybody say it now
Expert lover, huh, my baby, U ever had a crystal ball?
Under, undercover, ha, no maybe, all 4 fun and fun 4 all
Ah ooh
エキスパート・ラヴァー、マイ・ベイビー、クリスタル・ボールは手に入れた?
内緒にしようか、でもやっぱり、全ては楽しみのため、楽しみは全てのため

Rip it! Ouch! Uh
Expert lover, my baby, U ever had a crystal ball?
Uh
Expert lover, my baby, U ever had a crystal ball?
Crystal ball
Expert
My baby, my baby, my baby
My baby kiss me, lick me, trick me, whoa!
Oh yeah yeah
C'mon, c'mon, c'mon, won't U come on?

Expert lover, huh, my baby, have U ever had a crystal ball?
Don't U wanna?
What my drummer wanna say?
What my drummer wanna say?
Yeah! Drummer
Tell me what the bass says
Whoo
Yeah
Oh, ow

Alright (Ow!), expert lover, my baby is alright (No...!)
Alright, undercover, my baby is alright
Listen 2 the guitar play
Hey!
Wait a minute now
It's groovy
Ouch!
Guitar, guitar
C'mon now

Oh yeah
A heavenly echo of prayer and love (My baby, lick me fast)
Quietly missiles and people die (Her mama watch her gasp)
A gasp of gas clutters the mind (Come on, baby, do me fast)
And the woman dies n the aftermath (Come on, come on)
The mathematical gas

Sisters and brothers n the purple underground
Find peace of mind with the pop sound
It seems when we're n danger, everything gets black
Don't U wanna go?
Maybe not
Expert, expert

Uh
Ooh wee
Darlin', darlin', U know U want a crys... crystal ball
Crystal ball
I don't know, I have 2 ask my mommy 1st

As bombs explode around U and hate advances on ur right
The only thing U can b sure of is the love we make 2night
{scream}

Expert lover, my baby, U ever had a crystal ball?
Take off ur clothes, baby, come on, get the crystal ball
Oh expert lover, my baby, have U ever had a crystal ball? (Oh)
Come on, take off ur clothes, baby, come on, get the crystal ball (Oh)
Come on!
Expert lover, my baby, U ever had a crystal ball? (Oh)
Oh my baby, my baby, my baby (Oh)
Come on, get the, get the, get the crystal ball
Haha, oh
Have U ever had a crystal ball?

まだ読んでいない状態で言うのもなんですが、そして実際に読み終わるのはいつになるか分かりませんが、凄い本が出版されました。Duane Tudahl (カタカナ発音だとデュエイン・テュダール?) の「Prince and the Purple Rain Era Studio Sessions: 1983 and 1984」(amazon.com)(amazon.co.jp) です。Peach & Black ポッドキャストのインタビューを聴き、それがとても面白かったので、少しブログに書いておきます。

この本は、これまでの数あるプリンス関連書籍とは一線を画しており、極めて重要な価値のある本です。

そういえば、私はこんなふうに色々とプリンスについて書いていますが、私がプリンスについてブログを書くようになった一番の理由は、私がプリンスのファンだからではありません。その一番の理由とは、私がウエイトトレーニングについて書くのと似たようなものです。ウエイトトレーニングは、世の中では殆ど全く価値が認知されていないし、それどころか、実践している人ですら価値を十分に理解していないことが多々あります。そのように価値が見過ごされているのが勿体無いと思うのが、私がこれまでブログを書いてきた一番の理由です。これはプリンスにも同じことが言えます。

一人のアーティストとして、プリンスと同じ水準の創作活動をした人物は過去にはいませんでした。そして、そのような人物は現在もいませんし、今後も二度と現れることはないかもしれません。世の中には「誰某の方がプリンスよりも凄い」と主張する人もいるかもしれません。確かにスター・有名人という意味や、何かある一点だけを取り上げて言うのであれば、そういう人の名前はたくさん挙げることができるでしょう。しかし、「アーティスト」としてプリンスという基準を置いた場合、その基準上で同列に語ることのできる人物は誰も存在しません。

Elephant in the Room / 部屋の中の象

思えば、昨年日本で出版された様々な追悼特集号に対し、私には大きな不満がありました。プリンスの本であるにもかかわず、プリンス以外のことは饒舌に語られているのに、肝心のプリンスのことになると、どれもこれも避けられているように感じたのです。「私はプリンスのことが書かれていると思ってこれらの本を買ったつもりだったのに、プリンスをテーマにこれだけの文章が書かれていながら、肝心のプリンスのことは一体どこに書かれているのだろう?」と感じました。

明らかに重大な問題が存在しているのに、あたかもそれが存在しないかのように扱われ、誰もその問題に触れずに議論がなされる状態を、英語のイディオムでは "elephant in the room" と言います。これらの本では、プリンスという巨大な象が部屋にいるのに、まるでそれが存在しないかのように扱われていると感じました。

しかし、上にリンクしたポッドキャストは違います。プリンスをテーマにしたポッドキャストで、実際にプリンスのことが語られているのです! おかしなことを言っているように思えるかもしれませんが、プリンスのことがこれだけきちんと語られているのはかなり凄いことです。

今回出版された Duane Tudahl の本は、1983 - 1984年の2年間に渡るプリンスのスタジオセッションの記録と、それにまつわる関係者のインタビューをまとめたものです。プリンスは膨大な曲を作り続けたので、期間はたったの2年間ですが約550ページの本になります。プリンスのユニークなところは、何月何日に○○を録音した、という情報をまとめるだけで、それが単なる記録ではなく、何よりも貴重な物語になるということです。この点について、ポッドキャストでは、"re-contextualize" という表現をしています。この本は、プリンスの人生や音楽に、新たな視点を与え、それらを新たな文脈に落とし込めることのできる、貴重な本となっています。

また、この本では、プリンスの発言は太字で記され、それがいつどこでされた発言であるかのリファレンスが付いているのも素晴らしいです。

She's Always In My Hair と Sex Shooter

少し堅苦しい記事になってしまったかもしれませんが、これは肩肘を張って身構えて読むような本ではありません。ポッドキャストでひとつ個人的に面白い話があったので、それを紹介します。それは、1983年12月29日 (木曜日) のセッションです (ポッドキャストでは50分50秒頃~)。この日、プリンスは「She's Always In My Hair」を1日でレコーディングしました。プリンスであるためにシングルの B 面でさらっと発表された曲ですが、他のアーティストであれば、キャリアの代表曲として掲げられるような、素晴らしいロックソングです。

これの何が面白いかというと、スタジオセッションのワークオーダーには、この曲は「Sex Shooter」と記録されているのです。

prince-shes-always-in-my-hair

あまりにも違う曲なので、私は今までこの2曲を結び付けて考えたことがなかったのですが、指摘されてみると、確かに同じリフが使用されています。「Sex Shooter」の、あの4音からなるキャッチーなリフが、「She's Always In My Hair」の "She's always there (チャ・チャ・チャー・チャッ) tellin' me how much she cares" と、殆どそのまんま登場します。

思えばこの曲のスタジオバージョンは、どうして妙にシュイン・シュインしているのだろうと長年疑問でした。しかし、この曲が「Sex Shooter」から出来上がったというのであればそれも完全に合点がいきます。正確な事実は分かりませんが、この日、プリンスは「Sex Shooter」のリミックスを作るつもりでスタジオに入り、突然インスピレーションが湧いて、セッションが終わってみたら「She's Always In My Hair」になっていた・・・という話だったのかもしれません。

下のリンクは「Sex Shooter」です。リンクのバージョンでは、このリフは11秒ごろにスタートします。

「She's Always In My Hair」のスタジオバージョンは見つからないので、2014年の The Arsenio Hall Show に TV 出演したときのパフォーマンスです。途中だけでなく、イントロで歌に入る直前でも「Sex Shooter」のリフを使っています。

この曲で歌われている "彼女" が誰であるかについては証言がとれており、その女性とはジル・ジョーンズなのだそうです。

Whenever I feel like not 2 great at all
Whenever I'm all alone
Even if I hit the wrong notes
She's always in my boat
She's always there tellin' me how much she cares
She's always in my hair
上手くいっていないと感じる時も
すっかり独りぼっちだと感じる時も
音を外してしまった (= まずいことをした) 時でさえ
彼女は僕の舟に乗っていてくれる (= 苦しい時なども一緒にいてくれる)
彼女はいつも側にいて、どれだけ僕のことを思っているか教えてくれる
彼女はいつも僕の髮の中にいる

She's always in my hair, my hair
Maybe I'll marry her, maybe I won't
彼女はいつも僕の髮の中にいる - 僕の髮に
たぶん彼女と結婚するかも - でもしないかも

プリンスは、何かの謝罪のしるしにジル・ジョーンズにこの曲のカセットを贈ったのだそうですが、逆にジル・ジョーンズはヘソを曲げてしまいます。プリンスは、"きっと君はこの曲を気に入ってくれると思ったんだけど" と真摯な様子でジルに言ったらしいのですが、"たぶん君と結婚するかも、でもしないかも" だなんて、ずいぶん非道い贈り物だなあと思います (笑)。

おまけに、Purple Rain の頃はモジャモジャだった髪の毛も、この曲がリリースされる Around The World In A Day の頃にはすっきり短くカットしてしまいます。元が「Sex Shooter」から出来たということも併せて、もうプリンスは色々と非道いです。この曲に対する印象がすっかり変わってしまいました (笑)。

「A Case Of U」は、元々はジョニ・ミッチェルの1971年の曲です。プリンスはこの曲がお気に入りだったようで、コンサートなどでこの曲をカバーしています。プリンスが最初にこの曲をコンサートで演奏したのは、1983年8月3日の First Avenue になります (ちなみに、これは後にアルバム「Purple Rain」で使用されることになる「I Would Die 4 U」、「Baby I'm A Star」、「Purple Rain」が演奏されたコンサートです)。また、2002年の「One Nite Alone... - Solo piano and voice by Prince」に収録され、オフィシャルリリースされたバージョンもあります。

この曲は、ジョニ・ミッチェルの原曲では恋愛の歌になっていますが、プリンスのカバーはそれとは異なる意味合いの歌に変更されています。ジョニの原曲では、傷付くと分かっているのに、それでも恋の相手に惹かれてしまう複雑な女心 (それと "オォ、カーナーダーァー") が歌われます。一方で、プリンスのバージョンではそういった要素は取り除かれており、ジョニ・ミッチェルへの純粋な敬愛のほどがうかがわれるカバーとなっています。プリンスのカバーでは、第1と第3ヴァースが省かれ、第2ヴァースのみが歌われます。また原曲では "I'm frightened by the devil / And I'm drawn to... / 悪魔に怯え、恐れを知らぬ人に惹かれてしまう (しかしその人が恐れを知らないのは、実はその人そのものが悪魔だから)" と現在形で歌われる部分も、プリンスのカバーでは過去形にして、異なる意味合いに変えて歌われます。

1983年のバージョンや「One Nite Alone...」のバージョンは YouTube などで容易に見つかるので、私はまずこれらのバージョンに慣れ親しみました。妖しくワイルドな格好なのに小鹿のような眼差しで歌う、音質や画質が劣化してヨレヨレの1983年のバージョンも、より円熟した「One Nite Alone...」のバージョンも、どちらを聴いてもプリンスは本当にジョニ・ミッチェルが好きなんだな、と思います。

この曲に関しては、それが主な感想だったのですが、とあるバージョンを聴いて・・・何というか・・・どういう言葉を選べば良いのか分からないバージョンに出会いました。それは2016年4月14日のアトランタ、7:00 PM の Piano & A Microphone コンサートです。プリンスはこの日に Show 1 (7:00 PM) と Show 2 (10:00 PM) の2つのコンサートを行い、それが最後のフルコンサートとなりました。私は未だ断片的にしか聴けていないのですが、少し聴いただけでも、この日のコンサートは、人類の文化遺産に指定すべき途轍もなく素晴らしいコンサートだと思います。

元々ジョニの原曲とは異なる意味に変えられてカバーされていたこの曲でしたが、2016年4月14日のアトランタでの演奏は、完全に別次元の曲へと昇華されています。この日の演奏では、美しい間奏を挟んで、2度目の "In my blood like holy wine" が3回連続で歌われます。最初から凄い高音を出すのですが、3回目はさらに高くなり、プリンスはこの世のものとは思えない声を出します。曲が終わると1分ほど演奏が止まり、しばらく歓声だけになります。映像がなくて分からないのですが、この間プリンスは席を外し、しばしステージを離れていたらしいです。そして戻って来るとこう言います。

Sometimes I forget how emotional these songs can be. Okay, stay with it, Prince!
これらの曲がどれだけエモーショナルだったのかちょっと忘れてたよ。オーケー、プリンス、持ちこたえるんだ。

このアトランタのバージョンは、是が非でもヘッドホンかイヤホンで聴くことをおすすめします。YouTube に見つからないので、次のブログを勝手にリンクさせていただきました。筆者ご自身で録音した音源だそうです。「A Case Of U」は 8:00 頃から始まります。

また、この音源の最初には、プリンスが「Chopsticks」を弾く、とても面白い演奏が入っています。曲名だと分からないかもしれませんが、誰でも知っている曲なので、聴けば「ああ、これか」となると思います。リンクしたブログの方は、この部分のスクリプトも書いてくださっています。

Thank you, Atlanta. Once again I'd like to apologize for the cancellation I was a little under the weather. But we're here now. I want to take this time to thank you, each and every one of you for coming out and enjoying this night with us.
ありがとう、アトランタ。改めて前回のコンサートはキャンセルしてごめん。少し体調を崩してしまったんだ。でも僕らは今日ここに集まることができたね。この場を借りて、今夜一緒に過ごして楽しんでくれていることを、一人一人みんなにに感謝するよ。

I want to tell you a little bit about myself. I was born in Minneapolis. My father taught me how to play the piano...
少し自己紹介をするよ。僕はミネアポリスで生まれたんだ。ピアノの弾き方は、父さんが教えてくれたんだ。

("Choipstics" を弾き始める)

He didn't teach me that.
(弾きながら) ・・・なんてね、父さんは教えてくれなかったよ。(聴衆の笑い声)

I taught myself.
僕は独学でピアノを覚えたんだ。

(情緒的なアレンジを加えながら、さらに "Chopstikcs" を弾き続ける)

One of the things my father taught me was that funk (pause) is space.
替わりに父さんが教えてくれたことの、そのひとつは、ファンクは・・・スペースだってこと。

(よりファンキーなピアノプレイに移行する)

My father couldn't sing but he, he, he used to do this thing with his month, he says (starts scatting lightly). I used to watch him do that and (more scatting)...
父さんは歌うことはできなかったけど・・・と、と、父さんは、こんなふうに、口を使って (スキャットし始める)・・・僕は父さんが、こんなふうにするのを見て・・・(さらにスキャットを続ける)

That's funky, right?
ね、ファンキーだろ?

(ピアノの旋律がよりシリアスなトーンに変わる)

When I got a little older, and started doing things my way...
成長するにつれて、僕は自分流のやり方を身に付けていったんだ・・・

he liked to frequent this club down on 36th pimps and things used to hang outside and cuss for kicks... " (starts singing "Joy In Repitition").
"彼は36番通りのクラブによく出入りしていた。外ではいかがわしい奴らが刺激を求めてたむろしていた・・・" (Joy In Repetition の歌い出し)

「Joy In Repetition」は、7:00頃にプリンスの "Love me" という囁きで唐突に演奏が止まります。


画像が紛らわしいのですが、One Nite Alone のバージョンです。

こちらはジョニ・ミッチェルの "オォ、カーナーダーァー" なオリジナルです。


I'm a lonely painter
I live in a box of paints
I used 2 be frightened by the devil
And drawn 2 those ones that weren't afraid
私は孤独な絵描き人
絵具の箱の中に住んでいる
過去の私は悪魔に怯え
恐れを知らぬ人に惹きつけられた

Remember U told me love was touching souls?
Surely U touched mine
Part of U pours out of me
From time 2 time in these lines
あなたは私にこう言ったのを覚えてる?
愛するということは魂に触れることだと
もちろん、あなたは私の魂に触れた
私からあなたの一部がこぼれ出す
時に、言葉の端々に

U're in my blood like holy wine
U're so bitter, so sweet
I could drink a case of U, oh darling
And I'd still be on my feet
I'd still be on my feet
私の血には、聖なるワインのようにあなたが流れる
とても苦く、そしてとても甘い
私は、あなたを1ケース飲むことだってできる
それでも私はちゃんと立っていられる

U're in my blood like holy wine
U're so bitter, so bitter, so, so sweet, oh
And I could drink a case of U, oh darling
And I'd still be on my feet and I'd still be on my...
Still be on my feet, I'd still...
私の血には、聖なるワインのようにあなたが流れる
あなたは、とても、とても苦く、そしてとても甘い
私は、あなたを1ケース飲むことだってできる
それでも私はちゃんと立っていられる
それでも私は…

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