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主にトレーニングとダイエットのブログ。それとプリンス。

「3 x 2 = 6」は Vanity 6 のセルフタイトルアルバム (1982年) の最終曲で、心に深く沁み渡るバラード曲です。アルバム「Vanity 6」は、キラーチューンの「Nasty Girl」や、プリンスがダミ声の女を演じるコミカルな「If A Girl Answers (Don't Hung Up)」を筆頭に、それぞれに印象的な曲が並ぶ名盤です。しかし、アルバム全体を通して聴いたとき、それまでの全てを掻き消すようなショックと共に、いつまでも心に取り憑くのはこの曲だったりします。

「Nasty Girl」では悪女を気取って名前も教えてくれなかったヴァニティが、この最終曲で遂に心を開き、胸に秘めた思いを打ち明けます。けなげでいじらしいヴァニティの乙女心に胸が締め付けられます。

Nasty Girl:
That's right, pleased 2 meet U
I still won't tell U my name
Don't U believe in mystery
Don't U want 2 play my game
そうよ、はじめまして
まだ私の名前は教えられないわ
謎めいたものって素敵でしょう?
私のゲームをしてみたいと思わない?

3 x 2 = 6:
Let me tell U my story
私のことを話してあげるわ

My made-up name is Vanity 'cause a girl's best friend's her pride
私に付けられた名前はヴァニティよ
だって女の子にとって一番の友達は自分のプライドだもの


今回の記事は、先日書いたプリンスという「点」とミネアポリスという「シーン」に続くものです。1981年以降、プリンスは、「プリンス」に収まりきらない芸術表現をアウトプットする場として、The Time や Vanity 6 や The Family などのサイドプロジェクトを作りました。これらのグループはプリンスの別人格としての役割を果たすことになりましたが、その中で、ヴァニティはプリンスの女性バージョンとも言える存在でした。

この曲には、プリンスは自身の思いを投影させたのではないかな、と個人的に感じるヴァースがあります。

When I'm older, I wanna be a movie star just like Greta Garbo
Then I can tell everybody what to do
Well, she was so cool, it was plain to see that she was in control
I bet she never played the part of anyone's fool
私は将来グレタ・ガルボみたいな映画スターになりたいわ
そしたら周りの人間にあれこれ指図ができるの
彼女はとっても毅然としていて、主導権が彼女にあるのは明白だった
誰かのおもちゃを演じることなんて絶対になかったはずだわ

このヴァースから私が思いを巡らすのは、プリンスの最初のマネージャーであるオーウェン・ハスニーとの関係と、ザ・ローリング・ストーンズのオープニングアクトの事件です。


オーウェン・ハスニーはプリンスの最初のマネージャーを務め、プリンスのワーナーでのデビュー契約を実現させた人物です。ファーストアルバムの「For You」(1978年) までプリンスのマネージャーを務めましたが、その後、二人は袂を分かちます。

owen-husney

次のビデオの11分48秒からのやりとりを見てください。1999年のラリー・キング・ライブで、プリンスが出演した回です。プリンスは自分が有名になった経緯を語る中で、さらっと強烈な発言をします。

King: How did you get famous? How did the world get to know you? What happened? Was it a record, an appearance, something?
あなたはどのようにして有名になったのですか? どのようにしてあなたは世界に知られるようになったのでしょう? 何がきっかけでしたか? レコードでしょうか? それともイベントやメディア出演か何かでしょうか?

The Artist: Well, it started with a lot of appearances I was doing in and about Minneapolis. And word just spread about...
そうですね、はじまりは私がミネアポリスで行っていた様々な活動からです。その中で私についての評判が広まったのです。

King: So you were a local man?
あなたは地元で有名な人だったのですね?

The Artist: Yes - what I could do. And then I was taken out to Los Angeles by my first manager, whose name escapes me. And other people started getting to see what I could do.
ええ、私ができることについての評判が。その後、私の最初のマネージャーにロサンゼルスに連れて行かれました。その人の名前はちょっと思い出せませんが。そうして他の人々にも私の才能が知られるようになっていったのです。

言うまでもなく、プリンスがオーウェン・ハスニーの名前を忘れるなんて絶対にありえません。プリンスは、意図的にオーウェンの名前を出さなかったのです。


オーウェン・ハスニーのマネージャー契約が解消となった経緯については、様々な書籍や、ネット上ではペペ・ウィリーのインタビューなどに説明が見つかります。プリンスは、身の回りの雑用も含めオーウェンに100%の献身を求めましたが、オーウェンは自身で広告代理店も経営していたため、その要求の全てに応えることはできませんでした。決裂を決定付ける出来事として、プリンスがリハーサル部屋に置くためのヒーターを買ってくるようにオーウェンに頼むも、オーウェンは仕事上の都合でプリンスの要求を拒否したという話が知られています。

2018年にオーウェン・ハスニーは本を出版しました。タイトルは「Famous People Who've Met Me: A Memoir By the Man Who Discovered Prince」です (上の方に貼った二人の写真は、この本の表紙を切り取ったものです)。その本の「Crossroads」という章に、マネージャー契約が解消となった経緯についてオーウェンの視点からの説明が書かれています。それとは直接関係がないのですが、同じ章に面白いエピソードが紹介されていたので、以下に訳して紹介します。

以前、プリンスが新しく買った車を一人で運転している時に、雪道の中で立ち往生してしまったことがあった。プリンスはバッテリージャンパーケーブルを持ってくるようにと私に電話してきたので、私はすぐにその場に向かい、私の車のバッテリーとプリンスの車のバッテリーをケーブルで繋いだ。するとプリンスは突然何の前触れもなく、真冬の寒空の下、ジャンパーケーブルを持った私と2台の車を残し、こう叫んで走り去って行ってしまったのだ。
「もしファンに見られたらどうするんだよ! (What if my fans see me!)」
この話が面白いのは、これがプリンスがファーストアルバムやシングルを出す前の出来事だということだ。これは滑稽なプリマ・ドンナの行動だったのだろうか? いや、私には分かっていた。プリンスは、自分が絶対的な本物であることを既に知っていたのだ。この時点でプリンスは、3年後の自分が何処にいるかを頭の中で計算していて、既にその世界に生きていた。道の真ん中で立ち往生するようなヘマは、プリンスの作り出したペルソナのすることではなかったのだ。


もうひとつ私が思いを巡らすのは、ファンなら誰もが聞いたことがあろう、ザ・ローリング・ストーンズのオープニングアクトの事件です。4作目のアルバム「Controversy」のリリースを1981年10月14日に控えた時期、10月9日と10月11日の2度、プリンスはロサンゼルスでザ・ローリング・ストーンズのオープニングアクトを務めました。しかし、ステージに立ったプリンスとバンドメンバー達は、白人中心のガラの悪いオーディエンスから様々な物を投げ付けられるなど酷い目に遭います。そしてプリンスは初日のパフォーマンスの後ミネアポリスに帰り、以降の出演を拒否します。しかし、マネージャーのスティーヴ・ファグノリ、ミック・ジャガー、そしてデズ・ディッカーソンの説得に折れ、渋々ながら再度の出演を承諾します。ドラマーのボビー・Zは、"It was one of the only times I saw Prince visibly, physically have to do something against his will / プリンスが自分の意に反して実際に何かをするのを見たのは、あの時くらいのものだった" と回想しています (Mpls.St.Paul Magazine のサイトの記事、2016年12月5日)。しかし、再びステージに立ったプリンスとバンドメンバー達はやはり散々な目に遭い、以降の出演はキャンセルとなりました。

2018年10月に、初期プリンスの様々な写真を収めた Allen Beaulieu の写真集「Before The Rain」が出版されました。出版元である Minnesota Historical Society の紹介ページに行くと、Images の中の1枚にそのステージの写真が見つかります。

1981-rolling-stones

実は私がこの曲についてブログ記事を書こうと思い立ってから、2年以上の月日が経っています。それ以来、私は通算で数百回はこの曲を聴いています。Vanity 6 の「3 x 2 = 6」は、何度聴いても心が揺さぶられる名バラードです。


Let me tell U my story
私のことを話してあげるわ

[Verse 1]
My favorite band in life is playing in town on Wednesday night
I wish to God I had the nerve to go
The singer in the band's my type, not too big or small
But I hate to let my inner feelings show
水曜日の夜に、私が人生で一番好きなバンドが街にやってくるの
私に行く勇気があったらって神さまに願うわ
バンドのボーカルは私のタイプで、大きすぎず小さすぎないの
だけど胸の内に秘めた感情を見せるのはイヤだわ

[Chorus]
My made-up name is Vanity 'cause a girl's best friend's her pride
And a working girl don't have to tolerate the mailman's tricks
Everybody gets 3 years of tribulation unless they lie
But with the female, 3 times 2 equals 6
私に付けられた名前はヴァニティよ
だって女の子にとって一番の友達は自分のプライドだもの
働く女の子は郵便屋さんのちょっかいに耐える必要はないわ
誰もが3年の試練を受けるの、嘘をつかなければね
でも女性の場合、3x2で6になるわ

[Verse 2]
When I'm older, I wanna be a movie star just like Greta Garbo
Then I can tell everybody what to do
Well, she was so cool, it was plain to see that she was in control
I bet she never played the part of anyone's fool
私は将来グレタ・ガルボみたいな映画スターになりたいわ
そしたら周りの人間にあれこれ指図ができるの
彼女はとっても毅然としていて、主導権が彼女にあるのは明白だった
誰かのおもちゃを演じることなんて絶対になかったはずだわ

[Chorus]
So, my made-up name is Vanity 'cause a girl's best friend's her pride
And a working girl don't have to tolerate the mailman's tricks, oh no
Everybody gets 3 years of tribulation unless they lie
But with the female, 3 times 2 equals 6
それで、私に付けられた名前はヴァニティよ
だって女の子にとって一番の友達は自分のプライドだもの
働く女の子は郵便屋さんのちょっかいに耐える必要はないわ
誰もが3年の試練を受けるの、嘘をつかなければね
でも女性の場合、3x2で6になるの

Play your song one time, baby girl
ねえ、あなたの歌を一回やってちょうだい

I don't think they heard you now, baby
皆には聴こえてなかったんじゃないかしら

[Bridge]
That's all I need to say because I think you understand
Unless of course, in another life, you were a man
私が言いたいことはこれで全部よ、もうあなたは理解したでしょうから
もちろん、前世において、あなたが男でなかったらの話よ

[Chorus]
Please believe me when I tell you, a girl's best friend's her pride
A working girl don't have to tolerate the mailman's tricks, no she don't
Everybody gets 3 years of tribulation unless they lie
But with the female, 3 times 2 equals 6
どうか私の言うことを聴いてちょうだい
女の子にとって一番の友達は自分のプライドなの
働く女の子は郵便屋さんのちょっかいに耐える必要はないわ
誰もが3年の試練を受けるの、嘘をつかなければね
でも女性の場合、3x2で6になるの

Won't somebody help me
Please believe me when I tell you, a girl's best friend's her pride
A working girl don't have to tolerate the mailman's tricks, sister can you hear me
Everybody gets 3 years of tribulation unless they lie
But with the female, 3 times 2 equals 6
誰か一緒に歌ってくれないかしら
どうか私の言うことを聴いてちょうだい
女の子にとって一番の友達は自分のプライドなの
働く女の子は郵便屋さんのちょっかいに耐える必要はないわ
誰もが3年の試練を受けるの、嘘をつかなければね
でも女性の場合、3x2で6になるの

Sister can you hear me talking to ya
Please believe me when I tell you, a girl's best friend's her pride
A working girl don't have to tolerate the mailman's tricks, sister can you hear me
Everybody gets 3 years of tribulation unless they lie
But with the female, 3 times 2 is 6
あなたにも私の声が届いてるでしょう
どうか私の言うことを聴いてちょうだい
女の子にとって一番の友達は自分のプライドなの
働く女の子は郵便屋さんのちょっかいに耐える必要はないわ
誰もが3年の試練を受けるの、嘘をつかなければね
でも女性の場合、3x2で6になるの

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「Nasty Girl」は Vanity 6 のセルフタイトルにして唯一のアルバム「Vanity 6」(1982年) のオープニングを飾る曲で、Vanity 6 のシグネチャーソングとも言える曲です。ABBA が「Dancing Queen」、シンディ・ローパーが「Girls Just Want To Have Fun」ならば、Vanity 6 は「Nasty Girl」です。いや、自分でも対比させる意味は分かりませんけれど。

1981年以降、プリンスは、「プリンス」に収まりきらない芸術表現をアウトプットする場として、The Time や Vanity 6 や The Family などのサイドプロジェクトを作りました。これらのグループはプリンスの別人格としての役割を果たすことになりましたが、その中で Vanity 6 のヴァニティは、プリンスの女性バージョンとも言える存在でした。

前回の記事を前置きとして、これらのサイドプロジェクトの曲をいくつか取り上げようと思っています。一発目は Vanity 6 の「3 x 2 = 6」にするつもりでしたが、訳しているうちにそれよりもまずは「Nasty Girl」だなと思ったので、こちらを最初に取り上げることにします。


「Nasty Girl」は、これに取って代わる曲などないというくらいの名曲です。と言いつつ頭の中で「Sex Shooter」が流れてくるのはなぜでしょう。なんにせよ、この曲についてこれ以上書くといずれ後悔しそうなので、これ以上のコメントはしないことにします。


[Verse 1]
That's right, pleased 2 meet U
I still won't tell U my name
Don't U believe in mystery
Don't U want 2 play my game
そうよ、はじめまして
まだ私の名前は教えられないわ
謎めいたものって素敵でしょう?
私のゲームをしてみたいと思わない?

I'm lookin' for a man 2 love me
Like I've never been loved before
I'm lookin' for a man that'll do it anywhere
Even on a limousine floor 'cause
今までされたことがないくらいに
私を愛してくれるひとを探しているの
リムジンの床でも何処であっても構わずに
私を愛してくれるひとよ

[Chorus]
Tonight i'm livin' in a fantasy
My own little nasty world
Tonight, don't U wanna come with me
Do U think i'm a nasty girl
Tonight, I'm livin' in a fantasy
My own little nasty world
Tonight, don't U want 2 come with me
Do U think I'm a nasty girl
今夜、私はファンタジーの中に生きるわ
私のハシタない世界
今夜、私とご一緒しない?
私ってハシタない女の子かしら
今夜、私はファンタジーの中に生きるわ
私のハシタない世界
今夜、私とご一緒しない?
私ってハシタない女の子かしら

[Verse 2]
I guess I'm just used 2 sailors
I think they got water on the brain
I think they got more water upstairs
Than they got sugar on a candy cane
私は船乗りのことをよく知っているの
あの人たちって頭の中に水が溜まってるのよ
あの人たちはてっぺんが水ばっかりで
キャンディ棒には砂糖が付いてないの

That's right, it's been a long time
Since I had a man that did it real good
If U ain't scared, take it out
I'll do it like a real live nasty girl should
そうよ、つまり私はずいぶん長いこと
私を満足させてくれるひとに出会えてないの
怖くなかったら取り出してみせて
本物のハシタない女の子のすることを見せてあげるわ

[Chorus]
Tonight i'm livin' in a fantasy
My own little nasty world
Tonight, don't U wanna come with me
Do U think i'm a nasty girl
Tonight, I'm livin' in a fantasy
My own little nasty world
Tonight, don't U want 2 come with me
Do U think I'm a nasty girl
今夜、私はファンタジーの中に生きるわ
私のハシタない世界
今夜、私とご一緒しない?
私ってハシタない女の子かしら
今夜、私はファンタジーの中に生きるわ
私のハシタない世界
今夜、私とご一緒しない?
私ってハシタない女の子かしら

[Chorus]
Tonight i'm livin' in a fantasy
My own little nasty world
Tonight, don't U wanna come with me
Do U think i'm a nasty girl
Tonight, I'm livin' in a fantasy
My own little nasty world
Tonight, don't U want 2 come with me
Do U think I'm a nasty girl
今夜、私はファンタジーの中に生きるわ
私のハシタない世界
今夜、私とご一緒しない?
私ってハシタない女の子かしら
今夜、私はファンタジーの中に生きるわ
私のハシタない世界
今夜、私とご一緒しない?
私ってハシタない女の子かしら

[Bridge]
Please, please
Please, please
Nasty girl (nasty girl)
Do U think I'm a nasty girl
Nasty girl (nasty girl)
Do U think I'm a nasty girl
Nasty girl (nasty girl)
Do U think I'm a nasty girl
Nasty girl (nasty girl)
Do U think I'm a nasty girl
Oh (do U think I'm a nasty girl)
Oh (nasty girl)
Nasty girl (nasty girl)
Do U think I'm a nasty girl
Oh
お願い、お願いよ
ハシタない女の子
私ってハシタない女の子かしら
ハシタない女の子
私ってハシタない女の子かしら

[Spoken Interlude]
I don't like this groove
Try and give me something I can croon to
Catch my drift?
このグルーヴはいまいちだわ
私に甘い歌を歌わせてくれないかしら
私の言ってる意味はわかる?

That'll work
これでいいわ

[Instrumental Break]

[Spoken Interlude]
That's right, I can't control it
I need seven inches or more
Tonight, I can no longer hold it
Get it up, get it up, I can't wait anymore
そうよ、もう我慢できないの
18センチかそれ以上が必要だわ
今夜はこれ以上抑えられないの
たたせて、たたせて、もう待てないわ

[Outro]
Uh, it's time 2 jam
Dance nasty girls, dance
Everybody, uh, it's time 2 jam
Nasty girls, dance, dance, dance (Yeah)
Everybody, uh, it's time 2 jam
Nasty girls, dance, dance, dance
Uh, it's time 2 jam
Nasty girls, dance, dance, dance
Uh, it's time 2 jam
Nasty girls, dance, dance, dance
Uh, it's time 2 jam
Nasty girls, dance, dance, dance
Uh, it's time 2 jam
Nasty girls, dance, dance, dance
Uh, it's time 2 jam
Nasty girls, dance, dance, dance
(Are U gonna come)
(Are U gonna come)
(Are U gonna come)
(Are U gonna come)
(Ooh, ooh, ooh)
お楽しみの時間だわ
ハシタない女の子たち、踊るのよ
みんな、お楽しみの時間だわ
ハシタない女の子たち、踊るのよ

Uh
Is that it
Mmm, wake me up when U're done
I guess U'll be the only one having fun
これでおしまいなの?
フム、気が済んだら起こしてちょうだい
どうやらお楽しみはあなたひとりだけみたいね

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前回の「D.M.S.R」では、Vanity 6 を連想させる内容とともに、Jamie Starr という人物が歌詞に出てきました。

Jamie Starr's a thief
ジェイミー・スターは泥棒さ

ここで泥棒と称されている Jamie Starr とは偽名であり、その正体はプリンス本人です。1981年から1983、1984年にかけて、プリンスは The Time や Vanity 6 などの作曲やプロデュースのクレジットに Jamie Starr や The Starr Company という偽名を当て、自身の関与を隠しながら活動の幅を広げていきました。

今回は、プリンスがこのような偽名を使って活動したことについて、その意味を考えることにします。そして次回以降、ここから派生 (?) して、いくつか曲を取り上げるつもりでいます。それが終わったら「Around The World In A Day」に戻って、そこからマイテの本や「Rave Un2 The Joy Fantastic」のいくつかの曲について書こうと思っています。

プリンスという「点」とミネアポリスという「シーン」

これまでも何度か紹介していますが、リンク動画は 2016年12月に行われた Red Bull Music Academy 主催のスーザン・ロジャースのレクチャーです。45分12秒頃からの発言を引用します。

Torsten Schmidt: This band that you mentioned, The Time, how on the radar do you think they are on a scale from zero to ten?

あなたが先ほど言及した The Time というバンドは、レーダーでは0から10の目盛のどの辺りに位置するのでしょうか?

Susan Rogers: The Time is Prince. Prince wrote all those songs and performed all the instruments on the record. He'd have Jesse do a guitar solo. Prince would sing a guide vocal and then Morris would come in and just copy Prince's lead. The Time is just another one of Prince's musical personalities. Music is an expression of life, but it's not 100% of an artist's output. Music is only a part of Prince's life and Prince music was only a part of the music of Prince's life. There was The Time music, there was Sheila E and there was Vanity 6. They were his musical alter egos.
So, to answer your question, The Time was just another version of Prince. The public didn't know at the time, because Prince didn't want it to know. He didn't want it know that it was him.

The Time とはプリンスです。プリンスが全ての曲を書き、ジェシーにギターソロをさせたりもしましたが、プリンスがレコードの全ての楽器を演奏しました。そしてプリンスはガイドボーカルを歌い、モーリスはプリンスのリードをコピーするだけでした。The Time とは、プリンスが複数持つ音楽的人格のひとつにしか過ぎなかったのです。音楽はその人を表現するものであっても、アーティストの100%をアウトプットするものではありません。音楽はプリンスという存在の一部でしかなく、その中で「プリンス」の音楽は、「プリンスという存在」の音楽における一部でしかありません。プリンスには「The Time」の音楽、「Sheila E.」の音楽、「Vanity 6」の音楽があり、それらは皆プリンスの別人格というべきものでした。
ですので質問にお答えすると、The Time とは単に別バージョンのプリンスだったのです。ただし、当時世の人々はそれを知りませんでした。プリンスはそれを知られることを望まず、The Time が自分であると知られたくなかったのです。

なぜプリンスは、The Time や Vanity 6 がプリンス自身によって作られていたことを隠したのでしょうか? 続けてスーザンは、それが意味するところを説明します。

Prince created his own competition for the purpose of making... he's the first artist as far as I know to ever do that. Who does that, create your own competition so that you can get the record buying public to think that coming out of this town, Minneapolis, Minnesota is a scene, not just one genius guy. He created The Time to be his competition and then he wrote this movie to play them as the competition and the prize they were fighting for was Vanity 6, which is anther one of Prince's alter egos.

プリンスは自分に対抗する競争相手を、それそのものを目的として自ら作り出したのです。私が知る限り、プリンスはそのようなことをやってのけた最初のアーティストです。いったい他の誰にこんなことができるでしょうか? プリンスは自分に対抗する競争相手を作り出したことで、それが単にたったひとりの天才の仕業ではなく、ミネソタのミネアポリスという街がひとつの音楽シーンである、とレコードの購入者たちに思い込ませたのです。
プリンスは自身の競争相手として The Time を作り出しました。そして The Time を自分の競合関係に置き、これまたプリンスの別人格である Vanity 6 を巡って争う、という映画の脚本を書いたのです。

実際の映画制作ではヴァニティは役を降り、タイプの異なるアポロニアが代役に抜擢されましたが、若い女性が成功を夢見てひとりミネアポリスを訪れるという脚本も、ミネアポリスという街が一大音楽シーンであるというイメージを植え付けるのに成功しています。しかし、実はその全てはプリンスというたったひとりの天才に集約されるものでした。プリンスは The Time、Vanity 6、そして映画「Purple Rain」を通して、実体はプリンスという「点」であったにもかかわらず、幾多の才能がひしめく「シーン」を作り出すという、後にも先にも誰にも真似のできないことをやっていたのです。

現在では、これらの関連アーティストの楽曲を作っていたのはプリンスであり、演奏まで全てプリンスが行っていたのは周知の事実ですが、リアルタイムでは世の人々はそれがプリンスひとりの仕業であることを知りませんでした。そして、それぞれに魅力的なパフォーマーたちの中にあって、ひときわ輝きを見せるプリンスという存在。プリンスが成したことのスケールの大きさに、改めて驚愕せずにはいられません。

The Original 7ven (The Time) と fDeluxe (The Family)

The Time と、モーリスが去った後にポール・ピーターソンとスザンナ・メルヴォワンらを据えて作られた The Family は、現在はそれぞれ The Original 7ven、fDeluxe と名前を変えて活動しています。このふたつのバンドが名前を変えた理由は、オリジナルの名前での活動をプリンスが許さなかったためです。

私がこの改名にまつわる話を知ったとき、最初は正直なところ「名前くらい使わせてあげたらいいのに」と少し複雑な気分になりました。しかし、現在はその考えは変わりました。The Time や The Family の核となる人格はプリンスそのものであり、これらのバンドが単に別バージョンのプリンスであるのなら、プリンスの考えは至極真っ当ではないかと思うようになりました。The Time も The Family もその本質はプリンスなのですから、本質が消えて別のものに変わるのであれば、名前が変わるのもごく自然なことでしょう。

最初は「プリンスったら一体どうしちゃったの!」と困惑するも、何年も後になってから「やっぱり間違っていたのは自分で、正しいのはプリンスだった」となる、いつものパターンでした。


The Family の「Nothing Compares 2 U」と、2018年に公開された、プリンスが The Family のためにガイドボーカルを入れた「Nothing Compare 2 U」を改めて聴いてみます。リードボーカルのポールは、プリンスのガイドボーカルをそのまま撫ぞるように歌っていることが分かります。ちなみに、このポールのボーカルは、私は絶品だと思います。この曲を有名にしたのはシンプルなメロディと表現に書き変えられたシネイド・オコナーのカバーバージョンですが、非常に個人的な意見ですが、あれはオリジナルバージョンに求められるボーカル能力が尋常ではないためにあのように曲が単純化されたのではないか、と私は思っています。

それはそうとして、この曲に関しては、個人的に昔からずっと気になっていたことがあります。The Family のアルバムでは、プリンスの他の曲はどれもバンドの別の人が作者としてクレジットされているのに、唯一「Nothing Compares 2 U」だけは作者を偽らずにプリンスの名前がクレジットされているのです。

プリンスは、自身にとってパーソナルな意味合いが深い曲は、真の意味を人々に容易に悟られないように、あまり目立たない形で発表することがありました。曝け出した自身の内面を、誰にでも簡単に覗き込める場所には置きたくなかったのだと思います。そして、「Nothing Compares 2 U」も、そのような大切な曲のひとつだったのではないかと私は思うのです。だからこそ、1990年に曲の存在が世に知られるまでは自身がこの曲を歌うことはなかったのではないかと思います。そして、世に知られた「Nothing Compares 2 U」が本物ではなかったために、プリンスはこの曲を自ら歌うようになったという面もあったのではないかと想像します。

この曲については、当時プリンスのもとでハウスキーパーとして働いていた Sandy Scipioni という女性が、家庭の事情で去ってしまったことがインスピレーションになったのではないか、という話をスーザン・ロジャースが明かしています。

The Family のオリジナルバージョンの「Nothing Compares 2 U」です。

プリンスのガイドボーカルによる「Nothing Compares 2 U」です。

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