OneH

主にトレーニングとダイエットのブログ。それとプリンス。

人生がどうしたとかそういう大袈裟な話ではなくって、長年トレーニングを経験している人に対する定番の質問のことです。
質問: もしももう一度初心者に戻ってトレーニングをやり直せるとしたら、どんな内容でトレーニングをしますか?
これまでのトレーニング歴を振り返り、色々考えを巡らせるような面白い質問ではありますが、結局は多くの人が同じような回答になると思います。
定番の回答: スクワット、ベンチプレスなどのプレス種目、デッドリフトやバーベルベントロウを中心にトレーニングをする。そしてそのメニューを忠実に継続する。
質問も定番なら回答も定番、まあだいたいこんなところだと思います。「最初はバーベルの基本種目をやるべし。それが初心者にとって効率的なトレーニング方法だ」というのは多くの人が共感できるメッセージではないでしょうか。

ちなみに、私の場合は少し違います。私にとってトレーニングの一番の目的は肉体の見た目を変えることなので、私は通常はボディビル的な種目を中心にトレーニングをしています。そんな私がこの問いに答えるとしたら、こうです。
私の場合: 最初から普通に様々なボディビル的な種目を取り入れてトレーニングをする。それに加えてパワーのバーベル種目などもやる。要するに、最初から普通に現在と同じようにトレーニングをする。
このように、私が定番の回答のようなトレーニングでスタートしようとは思わない理由は2つあります。

1つには、自分が行っているトレーニングが、バーベルを挙げるためにやっているのか、それとも筋肉を働かせるためにやっているのか、どちらなのかを明確に区別する意識をなるべく早い段階で形成するためです。過去に初心者向け記事シリーズで書いた通り、トレーニング種目はバーベル中心種目と筋肉中心種目の2つに分けられますが、両者に大きな違いがあることを理解するのはトレーニング習得の最優先事項だと私は考えています。私が自分のトレーニング歴で犯した最大の過ちは、定番の回答のような考えでずっとトレーニングをやっていたため、両者の違いをはっきりと理解するまでに10年くらい掛かってしまったことです。

2つ目の理由は、ボディビルの種目は、バーベルの基本種目よりもシンプルで簡単で覚えやすいからです。ボディビルの種目を覚えるのに細かいインストラクションは必要ありません。どんな種目であってもテクニック的に習得しなければならないことは共通していて、それもたったのひとつしかありません。これも過去の記事に書きましたが、「鍛えるターゲットの筋肉を負荷に抵抗するように働かせる」という一点さえ押さえておけば、それだけで正しいトレーニングとして成立します。一般には「バーベルの基本種目は初心者にも勧められるが、ボディビルの種目は上級者向け。ボディビルの種目は難しいので基礎がしっかりしてから・・・」なんて思われがちですが、私は全く逆だと思います。バーベルの基本種目は結構難しいです。

● バーベルの基本種目は実は結構難しい

「初心者はバーベルの基本種目を」という意見には、長年トレーニングを経験していれば誰でも一定の共感を覚えることと思います。私もそのように答えたくなる気持ちはよく分かります。正しく経験を積んだ人なら、スクワットもベンチプレスもデッドリフトやバーベルロウも迷うことなく自然に動作を行うことができますし、これらの種目が様々な面で優れた素晴らしいものであることを身を持って十分に理解しています。

しかし、その経験値があるがゆえに忘れてしまいがちなことがひとつあります。全くの初心者が果たしてどのような身のこなしをするのか、思い浮かべてみてください。

私はトレーナーをしているわけではないので人に直接トレーニングを教える経験というのはあまり持っていないのですが、少なくとも私は、バーベルの基本種目におけるセットアップや動作のコツについて、それぞれなぜそのようになるのか最初から理解できる人というのを、これまでの人生でただの一度も見たことがありません。というか、全くの初心者だと、「こういう姿勢をするんだよ」と手本を何度見せても、その形を真似ること自体ができません。なんでこんな簡単なことが、と内心信じがたく思うのですが、理解してもらう云々の遙か以前の話で、形を真似てもらう時点で無理難題を吹っかけている状態になります。

しかし、よくよく考えたら無理もないことなのかもしれません。ジムでトレーニングしている人を見渡してみてください。一体どれだけの人がまともなフォームでトレーニングできているでしょう。一般のスポーツクラブだと90%以上といっていいほど殆どの人がまともなトレーニングができないのではないかと思います。立派な肉体をした人や人にものを教えるトレーナーですら、まともなフォームではトレーニングできない人が大勢います。自然にできるようになってしまうと信じがたい事実なのですが、基本的なトレーニング種目というのは、経験者やトレーナーも含めた大多数の人にとって正しく実行するのが不可能なほど難しいものなのです。

● Paul Carter のアイデア

長々と書きましたが、ここまではただの前振りみたいなものです。最近、Paul Carter の Strength Life Legacy という本を買ったのですが、そこに書かれている初心者のトレーニング方法に関するアイデアが素晴らしいので、それを簡単に紹介したいと思います。

このアイデアは、彼が、13歳で体重44kgの娘さんにトレーニングを教えた時の話がベースになっているのですが、特に種目の選択の仕方が見事なのでその部分を紹介します。その基本的な方針は、テクニック習得が必要な種目は最初の内は行わずに後回しにするというものです。具体的には、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの内、行うのはスクワットだけにします。これにより、テクニック習得が必要な種目はスクワットだけになります。ベンチプレスとデッドリフトは初心者には基本的なテクニックを理解することが困難なので最初の段階では行いません。

その代わりに彼が選択した種目は次のようなものです。
  • スクワット - テクニック習得が必要な種目ですが、これだけは最初から組み入れます。
  • インクラインプレス - ベンチプレスの代わりにこれを採用します。フラットベンチの代わりにインクラインを行うことで、アーチ、肩を引いた受けの姿勢、レッグドライブ、背中のタイトネスといったセットアップの諸々の所作を考えなくて良くなります。考えるのは、バーをラックから外し、胸上部に降ろし、プレスする、という拳上の動作だけです。諸々のテクニックの習得に戸惑いセッションを潰す心配がなくなり、プレスの動作をすることだけに集中できます。
  • バックエクステンション - デッドリフトの代わりにこれを採用します。注意するのは、スポーツクラブでよく見られるような終始背中をアーチさせてハムなどに負荷を分散させるフォームではなく、ボトムで背中を丸めてきちんと下背部の種目として行うことです。デッドリフトと違ってテクニック的な難しさは一切ありません。適切に行うと良い下背部の種目になるだけでなく、後々デッドリフトを始めた時に、多くの人が間違えて覚えてしまっている背中のアーチの意味を正しく理解できるようになります。
  • ケーブルロウ - バーベルロウの代わりにこれを採用します。バーベルロウは基本種目でありながら適切な姿勢を取ることが非常に難しく、初心者どころか大多数のトレーニーが変なフォームで行っている種目です。ケーブルロウはそれに比べると姿勢の難しさが少なく、よりウエイトを動かすことに集中できます。
このような種目でトレーニングを行うことで、初心者であってもテクニックの習得ですったもんだすることなく、経験者同様にウエイトを動かして体を鍛えるというトレーニングの本分に集中することができます。バーを適切な軌道でコントロールする、体のバランスを崩さない、などといったトレーニーとしての基礎的な筋力やセンスが養われ、後にベンチプレス、デッドリフトやバーベルロウのようなテクニックの習得が必要な種目に移行した時に、なぜ諸々のテクニックが必要なのか、その意味をスムーズに理解できる状態で取り組むことができるようになります。

バーをコントロールできず、体のバランスを取ることもできず、何より正しい姿勢を真似することすらできない初心者がトレーニングをスムーズに習得するための方針として、彼のアイデアはとても効果的で参考になると思います。
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最近、自分のトレーニングはルーティンを変更して、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトを組み入れています。ルーティンを変更した元々の理由は、持病の腰椎分離症による腰痛を日常生活で悪化させてしまったので、体幹を補強して腰痛を和らげるためだったのですが、いざやり始めるとこの3種目ってやっぱり面白いものだと改めて感じます。前回、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトがなんちゃらという記事を投稿しましたが、それはこのトレーニング内容の変更を切っ掛けに書こうと思ったものです。

しかし、楽しんでトレーニングしてはいるものの、腰の問題を差し引いても私はかなりショボイ重量しか挙げることができません。このように、思ったよりも重量が挙がらないという悩みを持っているのは私だけではないと思います。高重量を見せつけたいというエゴを棄てて誤魔化さずに挙上すると、自分の願望よりも低い重量しか挙げられずにガッカリだという人は多いのではないでしょうか。

そこで「今よりももっと強くなりたい」という思いがあれば、これらの種目を伸ばすために努力をするものです。しかし残念なことに、世の中は役に立たない情報で溢れています。正しい方向に向かって努力できるように自分を導いてくれるような適切なアドバイスは、得るのが難しくとても貴重なものです。

そんな中でも私が特に役に立たないと思うアドバイスの筆頭は、「柔軟性が足りないから~」とか「筋力バランスが悪いから~」といったものです。アドバイスでこういった類のことしか言えないという場合、指導する本人が正しいデッドリフトやスクワットやベンチプレスを知らないのだと考えて間違いありません。私は今腰の状態が悪く、前屈で指先が膝までしか届かない状態なのですが、デッドリフトもスクワットも動作上の問題は全くありません。ベルトも別に必要なものではないので着けていません。弱いので扱う重量はかなり軽いのですが充実したトレーニングができています。もしうまく動作できないのだとしたら、それは柔軟性や筋力バランスの問題ではなく、単純に各種目が何をするものなのか理解しておらず、体をどう動かしたらよいのかを知らないというだけのことです。

とにかく世の中そんなどうしようもない情報ばかりなので、その分野に精通した人による踏み込んだ詳しいアドバイスがあると「おっ」となります。そういったアドバイスでは、それぞれの種目に関わる動作を細かく分析し、拳上におけるこの部分の強化はこう、と具体的な処方箋を示してくれます。そして、自分の弱点を見極めてそこを克服するようにトレーニングを行いましょう、と指南してくれます。

そういう詳しい人からの懇切丁寧なアドバイスってありがたいものですよね。

・・・否。

そのアドバイス、「ちょっと待て」です。引っ掛かるところがあります。ノーギアのパワーリフティング種目において、「弱点」などというものは存在しません。

ノーギアのパワーリフティング種目では、誰もが同じところで挙上を失敗します。ベンチプレスならば、少し挙がったところ~半ばを過ぎたあたりでミスをします。スクワットならば、ボトムから切り返すところでミスをします。デッドリフトの場合は、たいていは床から浮かせて膝を通過する前に限界がきますが、デッドリフトだけは様々なところで失敗する可能性があり、膝を通過してロックアウト直前まで行きながらミスしてしまうこともあります。

ちなみに、拳上を失敗するスティッキングポイントは、ギア有りの場合では話が変わります。ギア有りではギアのアシストを利用してノーギアのスティッキングポイントを乗り越えることができるなど、拳上の特性が変わってくるので、ノーギアとは違ったアプローチで物を考える必要性がでてきます。

とにかく、ギアを使用しない場合、拳上におけるスティッキングポイントは皆一緒です。ワールドクラスのリフターも趣味レベルのトレーニーも同じところで拳上をミスするとしたら、それを「弱点」と呼ぶのは適切ではありません。そこでミスをすることは元から定められていて、いかなるトレーニングでもそれを克服することはできないからです。

Paul Carter の LIFT-RUN-BANG を読んでいたら、このことに言及したブログエントリがありました。彼に言わせると、こういうことです。

Weak point training is bullshit. It's a complete myth.

では強くなるためにはどうすれば良いのでしょうか?

If you want to get stronger... get stronger.

そうです、強くなりたいのであれば、ただ単純に強くなればよいのです。

「一部のトップリフターは特別なノウハウを隠し持っているのではないか?自分が弱いのはそのノウハウを知らないせいではないか?それを伝授してもらいトレーニングすれば・・・」

このような考えに陥ったことのある人は多いと思います。しかし、このように自分を信じられないときに必要なのは、秘密の特別なトレーニングではありません。それに、トップリフターが言っているからといって、それが適切なアドバイスだとは限りません。確かに記録を向上させることは容易なことではありません。でも、だからといって特別なノウハウを学ぼうとしたり、変わったトレーニングに手を出したりするのは無駄な努力です。

複雑にものを考える必要などありません。自分のテクニックが正しいのか不安なのであれば、ただ単純に正しいテクニックを知ればよいのです。強くなりたいのであれば、ただ単純に強くなるためにトレーニングをすればよいのです。

● 参考リンク


Making your strong points...stronger - Paul Carter
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● 「オレ、猿が大人になったら人間になるもんだと思ってたよ」

昔々、私がまだ小さな子供だった頃、学校の帰り道に一緒にいた友達がボソッと呟きました。

「ヒトはサルから進化した」という話は、皆小さい頃から教わって知っていますが、子供の頭でこれを正しくイメージするのは難しいものです。「そんなわけないじゃん!」と思った私も、「動物園で見るチンパンジーやゴリラもこのまま後世に渡って延々と子孫を残していけば、遠い未来には進化して人間になるんだろうなあ」なんて子供心に思ったものです。

でも、そんなわけないですよね。チンパンジーやゴリラはヒトには進化しません。

チンパンジーもゴリラも、そして私達人間も、はるか昔に遡れば共通の祖先を持っています。しかし、進化の過程で分岐し、それぞれ別の種として道を歩んできました。原始的なサルから枝分れしてチンパンジーに進化したけれども、やっぱりやめてヒトに進化しようだなんて、そんな都合の良い軌道修正はできません。

                   ----- ゴリラ
                /
サルの祖先 ----------------- チンパンジー
                       \
                          ------- ヒト


ものすごく唐突に話が変わりますが、スクワット、ベンチプレス、そしてデッドリフトといえば、言わずもがなパワーリフティングの3種目です。バーベルのある環境で真剣にトレーニングしたことがあれば、やったことがない人はいないであろうといえる、バーベル種目の代表ともいえる種目です。

ところが、一般のジムでは、パワーリフティングで通用するようなフォームに従ってトレーニングをしている人を見る機会は驚くほど少ないものです。殆どのトレーニーは、動作域を制限するなどして、パワーリフティングのフォームよりも高重量を扱えるやり方でこれらの種目を行っています。しかし、もしパワーリフティングで通用するフォームで自分の実力を試したいと思った場合、本来ならば挙上できない高重量を使ってパーシャルレンジでスクワットやベンチプレスやデッドリフトのトレーニングをすることに、どんな意味があるのでしょうか?

● スクワット

私は、スクワットで最も重要な動作は、ボトムからの切り返しだと思っています。スクワットが強くなりたいのであれば、ボトムから切り返すところを強化するのが何よりも重要なことだと考えています。

ところが、一般のジムでよく見るのは、バーベルにプレートを足すにつれてしゃがみが浅くなるスクワットです。しゃがみを浅くすることで高重量を扱うことを可能にしていますが、これでは最も重要なボトムの切り返しをスキップしてトレーニングすることになってしまいます。浅いスクワットでは、ボトムの切り返しを強化することができず、パワーリフティングのためには不適切なトレーニングになってしまいます。

私は進化論への造詣が深くないため綺麗な図は描けないのですが、スクワットの進化系統を単純化したツリーで示すと次のようになると思います。

生命の誕生 ------------- ジムでよく見る浅いスクワット
                 \
                    ---- パワーリフティングのスクワット


ジムでよく見る浅いスクワットとパワーリフティングのスクワットは、この図のように別の系統を辿って進化した種目だと私は考えています。浅いスクワットばかりやっていてもパワーリフティングのスクワットの強化には繋がりません。

しかし、「ボトムで切り返した後、フィニッシュまで持っていく途中で潰れてしまうのを防ぐために、高重量で行うパーシャルレンジのスクワットは有効なんだ」と主張したくなるかもしれません。でも浅いスクワットでは、パワーリフティングのスクワットでは到底扱えない重量を楽々と挙上できますよね?何故、いざパワーリフティングのスクワットになるとボトムで切り返した後、同じレンジに差し掛かったときに、楽々扱えるはずの重量で潰れてしまうことがあるのですか?

それは、浅いスクワットはパワーリフティングのスクワットとは異なるメカニズムで挙上しているからです。浅いスクワットは浅いスクワットを挙げるのに特化して別系統に進化したエクササイズです。たとえそれで高重量を挙げられたとしても、パワーリフティングのスクワットへのキャリーオーバーは殆ど期待できません。

●  ベンチプレス

ジムでよく見るのは、より高重量を扱うために腰を浮かしてベンチプレスを行っているパターンですが、これが反則なのは誰でも知っていると思うので、別の補助種目を例に挙げます。

海外のリソースにあたってベンチプレスを調べていると、よく目にする補助種目にボードプレスというのがあります。胸の上にボードを置いて、動作域を制限するベンチプレスです。日本のジムでもベンチプレッサー的な人が行っているのをまれに見ることがあります。ボードを使わなくても、セーフティーバー等を使用しても似たようなことができます。

このようなボードプレスなどの種目は、プレスの中盤以降や、終盤の押し切ってロックアウトする部分を強化することが主な目的です。ベンチプレスのスティッキングポイントがプレスの後半から終盤にあったとすると、ボード等を使用して動作域をそこに合わせ、弱点強化に特化したトレーニング行う、というのは一見理に適っているように思えます。そう、一見は。

しかし考えてみてください。ボードプレス等では、普通のベンチプレスよりも高重量を挙げることができてしまいます。例えば、普通のベンチプレスである重量でロックアウトで失敗しても、ボードを使うとたったそれだけで最後まで挙げ切ることができてしまいます。つまり、どこも強化することなく、ボードを置くだけで弱点部分を通過することができるようになるのです。しかし、ボードを取り払ってフルレンジに戻すと、やっぱり押し切れずに失敗してしまいます。これって、本当にロックアウトが弱点といえるのでしょうか?

パーシャルレンジにしたら挙げ切ることができて、フルレンジにすると潰れるということは、単純な引き算の問題です。本当の弱点はパーシャルレンジではカバーされていない部分ということになります。そう、本当の弱点が潜んでいるのは、ロックアウトの部分ではなく、ボードで動作域から除外されたボトムの部分ということになります。

よくよく調べてみると、ボードプレスはギアを使用して大会に出るような人達の間で推奨されていることが多いです。ギアを使用する人にとってはどうやら使いどころのある補助種目なようなのですが、ギアを使用しない人にとっては本当に重要な部分がスキップされた、別系統に進化した種目といえるのではないかと思います。

生命の誕生 ------------- ボードプレス等のパーシャルレンジのベンチ
                 \
                    ---- パワーリフティングのノーギアベンチプレス

● デッドリフト


デッドリフトのバリエーションとして、膝上で行うラックプルというのがあります。ラックのセーフティバーを調節して膝上からスタートするパーシャルレンジのデッドリフトで、日本語で検索するとよくトップサイドデッドリフトという名前で呼ばれている種目です(ちなみに英語ではこのような呼び方はしません)。

このラックプルというエクササイズなのですが、デッドリフトの補助種目に挙げられることがあります。目的は、デッドリフトのロックアウト強化です(もうひとつちなみに、日本ではデッドリフトの後半動作はまるでウエイトリフティングのクリーンのようにしばしばセカンドプルと呼ばれますが、パワーリフティングのデッドリフトでこの言葉を使うのには違和感を覚えるので、ここではセカンドプルという言葉は使わないことにします)。ラックプルの動作は、確かに一見すると、デッドリフトでロックアウトまで持って行けずに試技が失敗してしまうのを防ぐのに有効なように思えます。何しろ動作域をその部分に絞ってトレーニングを行うわけですから、ロックアウトの強化に有効なのは自明なように思えます。

しかし、ここでもまた考えてみてください。現実には、床から引いたらロックアウトできずに失敗してしまう重量であっても、膝上のラックプルならば余裕でフィニッシュできてしまいます。もしも膝上デッドリフトが通常のデッドリフトの後半を模したものなのであれば、こんなことは起こりえないはずです。

こんなことが可能なのは、膝上のラックプルが膝下から引くデッドリフトの後半動作とは異なるメカニズムで挙上するエクササイズだからです。膝上のラックプルは一見すると通常のデッドリフトの後半動作に似ており、同じ種に属するように思えますが、実際は分岐して別系統に進化した種目です。デッドリフトの弱点が握力だというのならば、ラックプルは補助種目として一定の価値はあるかもしれませんが、そうでない場合、ラックプルを強化しても普通のデッドリフトへのキャリーオーバーは殆ど見込めません。

生命の誕生 ------------- 膝上のラックプル(トップサイドデッドリフト)
                 \
                    ---- パワーリフティングのデッドリフト

● 最後に


スクワットやベンチプレスやデッドリフトの補助種目というものは、メイン種目の挙上における部分的な構成要素に焦点を当てて強化を図るものです。例えばベンチプレスなら大胸筋を強化する、というように。補助種目を適切に行うことによって、メイン種目に沿った道筋で歩を進め、さらなる進化を図ることができます。

しかし、「大元の種目であるスクワットやベンチプレスやデッドリフトよりも高重量を扱えてしまうことができる補助種目」というのは、単純に考えて何か矛盾しています。その補助種目は別系統に分岐して進化したものかもしれません。進化で枝分かれになってしまったエクササイズを頑張っても、それは進化の別な方向に突っ走っているだけです。チンパンジーが進化しても人間にはならないように、元の種目へのキャリーオーバーは期待できません。
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