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主にトレーニングとダイエットのブログ。それとプリンス。

「Safe In The Arms Of Love」は、マルティカの1991年のアルバム「Martika's Kitchen」に収録されている曲です。プリンスはこのアルバムに、タイトル曲や素晴らしいヒット曲「Love... Thy Will Be Done」など計4曲を提供しています。私はこのアルバムは未聴で、割と最近になって初めてこの曲を聴きました。

この曲を聴いた切っ掛けはあの曲を調べている中でのことだったのですが、プリンスはこの曲を聴いた後で、よくあの曲を書けたな・・・と思いました。そして、どうしてマルティカはあの曲を自分のアルバムに採用しなかったのかもよく分かりました。確かに、いかに良い曲であろうとも、あの曲はこのアルバムに入れることはできません。

あの曲とは「Open Book」のことです。プリンスはこの曲を受けて、歌詞の一部を使い、「Open Book」という、思いを全く異にする曲を書いています。「Open Book」は以前このブログでも取り上げたことがありますが、とても特別な曲なので次回改めて取り上げるつもりでいます。

とりあえず今は「Safe In The Arms Of Love」を聴くことにします。こんなに素直で清らかな曲、久々に聴いた気がします。


You say my heart's an open book
There are pages of my life you've never seen
You're always there between the lines
But there's so much more you just can't seem to read
あなたは私の心は開いた本のようだと言うのね
私の人生にはあなたがまだ見ていないページがあるわ
あなたはいつも行間まで来てくれるけれど
あなたが読むことのできないものはまだ沢山あるわ

Pieces of dreams
Pull us our separate ways
But we'll return someday
別々の夢を追いそれぞれの道を辿っても
私たちはいつの日かまた戻って来るの

So let the wind blow
'Cause my heart knows
We were meant to be together from the start
When the stars shine
Over one sky
I'll have faith
I'll be safe in the arms of love
だから今は風の吹くままに
だって私たちは初めから一緒になる運命なのだと
私の心は知っているから
星たちがひとつの空に輝くとき
私は信じるの
安らぎの中で愛に抱かれることを

Oh, yeah

You take me to another world
It feels so natural, so right
Then we awaken to reality
'Cause we both know that now is not the time
あなたは私を別の世界に連れて行ってくれる
とても自然で心地良い場所に
だけど私たちは現実に目を覚ます
だって私たちは今がその時だと知っているから

Under your spell
I'll never be all that I can
But I'll come back again
あなたの魔法にかけられると
私は自分の全てを賭けられない
でも私はまた戻って来るわ

So let the wind blow
'Cause my heart knows
We were meant to be together from the start
When the stars shine
Over one sky
I'll have faith
I'll be safe in the arms of love
だから今は風の吹くままに
だって私たちは初めから一緒になる運命なのだと
私の心は知っているから
星たちがひとつの空に輝くとき
私は信じるの
安らぎの中で愛に抱かれることを

I'll have faith
What's mine is mine
And no one can take it away from me
I believe that in the end
We'll never have to be apart again
私は信じて進むわ
私のものは私のものだから
他の誰も奪うことはできない
そして最後には
私たちはもう二度と離れないと信じているの

So let the wind blow
'Cause my heart knows
We were meant to be together from the start
When the stars shine
Over one sky
I'll have faith
I'll be safe in the arms of love
だから今は風の吹くままに
だって私たちは初めから一緒になる運命なのだと
私の心は知っているから
星たちがひとつの空に輝くとき
私は信じるの
安らぎの中で愛に抱かれることを

Yeah...

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「Adonis & Bathsheba」は、1986年に書かれた未発表曲です。少し風変わりではありますが、ワルツのリズムに乗せて神話的な世界が描かれる、なんとも多幸感の強い曲です。雰囲気としては、どこかしら未発表曲「All My Dreams」や未発表1986年バージョンの「Crucial」の要素も感じさせます。また、後半のギターや終わり方は、個人的に後の「She Gave Her Angels」なども感じさせます。

あまり多くの言葉が並べられているわけではないにもかかわらず、この曲の歌詞から紡ぎ出される物語は聴く人の想像を大いに掻き立てます。アドーニスとバト・シェバは、花々が咲く素敵な庭園を訪れます。ふたりは見晴らしのよい廃小屋を見つけると、服を脱ぎ捨てながら走り出します。しかし、廃小屋に辿り着いたふたりは、そこにベッドがないことに気付きました。さあ、ふたりはどうやって愛し合うのでしょう・・・? という歌です。

また、曲タイトルにある、アドーニスとバト・シェバというのは、Wikipedia では次のように説明されています。

  • アドーニス (アドニス) は、ギリシア神話に登場する、美と愛の女神アプロディーテーに愛された美少年。フェニキアの王キニュラースとその王女であるミュラーの息子。彼の名は、美しい男性の代名詞としてしばしば用いられる。
  • バト・シェバ (バテシバ、バテ・シェバ) は、ヘブライ語聖書によれば、ヒッタイト人ウリヤ (ヒッタイト) の妻で、後に古代イスラエルの王ダビデの妻、ダビデの跡を継いで王となったソロモンの母。

この曲について海外のファンの評価を検索すると、見つかるのは賛辞の雨あられ、といった具合で、ファンの間では非常に評価の高い曲であることが分かります。しかし、この曲は、スーザン・ロジャースがプリンスとレコーディングをする中で、唯一例外的にお気に召さなかったことでも有名な曲です。以下にリンクした Prince Podcast のエピソードで、スーザンがインタビューに答え、この曲についてコメントしています。45分54秒ごろからです。

Michael Dean: このインタビューにあたって、予めリスナーにあなたへの質問を募り、沢山の質問を頂いています。その全てを取り上げることはできないので絞り込まなければなりませんが、次の質問は私も聞きたかったことです。なぜならば、私はこの曲が大好きなんです。その曲とは、「Adonis & Bathsheba」です。

Susan Rogers: あら、まあ・・・

Michael: 間違いだったら訂正してください。あなたはこの曲のレコーディングに携わりましたが、私の理解では、どうやらあなたはこの曲をあまりお気に召さなかったとか・・・?

Susan: ええ、そうね・・・(笑)

Michael: (笑)。詳しい話を聞かせてもらえますか?

Susan: そうね、先にお話した通り、私はプリンスのもとで働いていましたが、同時にプリンスのファンでもありました。私はプリンスのもとで4年以上の歳月を過ごし、一日一日が過ぎるたびに、そして新しい曲が出来るたびに私が抱いたのは、感謝と、驚きと、それに興奮でした。私の感動しやすい性格もあったのかもしれませんが、そのことは別としても、プリンスはあまりにも素晴らしいアーティストだったのです。私はプリンスが何か新しいことをするたびに頭の中でこう思いました。
「これは彼が作った曲の中で最も素晴らしいんじゃないかしら!」
「これは彼の最高傑作だわ」
「これはファンが聴いたら凄いことになるわ!」
「ファンタスティック」
「この曲大好き!]
私は毎回いつもこのような思いを抱いたんです。たとえどんなに疲れていたとしても、プリンスが「フレッシュテープ」という魔法の言葉を発すると、それはレコーディングを続けることを意味しました。セッションが始まって24時間後か、48時間後か、あるいはもっと時間が経過していても、プリンスが「フレッシュテープ」と言えば、私は興奮状態になりました。なぜならば、それはさらに新しい曲が作られることを意味したからです。もうひとつの新しい曲が!

ですが、「Adonis & Bathsheba」は違いました。4年もの歳月の中で初めて思ったんです。「あら・・・これは最高傑作ではないかもしれないわ」と。それはちょっと面白い曲ではありましたが、歌詞はアドーニスとバテ・シェバやら愛の庭なんやらと何とも陳腐な響きがありました。ですが、レコーディングセッションが進み、プリンスが「ポクリ〜〜ン♪」とハープの音をオーバーダビングすると、そこでやっと私は吹き出しました。可笑しくてたまらなくなったのです。確かそのときプリンスの様子か言動に何か乗り切らないものがあったようにも覚えていますが、それでもあれは可笑しく感じられました。とにかく、他とは違うものが感じられたんです。でもそこに行き着くまでに時間がかかったんです。

Michael: なるほど。私が初めてこの曲を聴いたときは、驚きのあまり口があんぐり開きました。どうしてこれほどの曲がリリースされなかったのかと。

Susan: 分かります。本当にそうですよね。当時はアルバムの構成曲を検討する中で、私も同じ思いをしたものです。プリンスは私の大好きな曲を構成に組み入れて、私は大興奮するのですが、そのうちプリンスは気が変わってその曲を外してしまうんです。そのたびに、私はその曲がアルバムに収録されないのだと気付いてガッカリするんです。私の場合、それで最も悲しい思いをした曲は「Moonbeam Levels」です。あの曲は私が来る以前に録音されたものですが、私のとても大好きな曲です。あの曲は何度もアルバムに入れることが検討されましたが、プリンスは結局外してしまいました。あれは本当に残念でした。

(注: 「Moonbeam Levels」については、確かスーザンは別のどこかのインタビューで、「Purple Rain」、「Around The World In A Day」、それに「Parade」にも一時は収録が検討されたと語っています)

どうでしょうか? 私は「どうしてこれほどの曲がリリースされなかったのか」という気持ちも、スーザンの「これは最高傑作ではないかも」という気持ちも両方分かる気がします。いずれにせよ、聴く人の想像を掻き立てられる、印象深い曲です。



2 an orgy in a garden of flowers Adonis and Bathsheba flew
All of creation awaits them, flamingos stand by the crystal blue
Stream of desire and erotic rebellion
That parades thru their hearts and minds
They look at one another as much as they don't
2 touch is their need, 2 love they are blind
2 love they are blind
花々が咲き誇る庭園の宴に、アドーニスとバト・シェバは訪れました
そこには全ての創造が待ち受けていました
青く澄んだほとりにはフラミンゴたちが佇み
欲望と淫靡な反逆の絶え間ない流れが
ふたりの心を縫うように行進します
ふたりは互いを見つめては逸らし見つめては逸らし
そしてふたりは触れ合い、愛に盲目でした
ふたりは愛に盲目でした

An abandoned gazebo houses what looks 2 be a perfect place
They undress as they're running, Bathsheba crying
Adonis sweat upon his face
4 them there is no morning, only night decisions so grand
There is no bed, how will they ever... love?
They decide 2 stand
No bed, they decide 2 stand
ふたりは見晴らしのよい廃小屋を見つけると
恰好の場所だとばかりに服を脱ぎ捨てつつ走り出しました
バト・シェバは叫びながら
アドーニスは顔に汗を浮かべながら
ふたりに朝はなく、すべて夜で決心は壮大でした
ですがそこにベッドはありませんでした
ふたりはいったいどうやって・・・愛し合うのでしょう?
ふたりは立つことに決めたのです
ベッドがないので、ふたりは立つことに決めたのです

Adonis and Bathsheba in a garden of flowers, in a garden of love!
アドーニスとバト・シェバは花の庭に - そこは愛の庭!

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1991年のアルバム「Diamonds And Pearls」のレビューです。

はじめに & 総評

まず最初に、私がこの作品をどのように考えているかについて論旨をまとめておきます。

私は、アルバム「Diamonds And Pearls」は1990年代から現在までの音楽史における最高傑作だと考えています。プリンスのオフィシャルアルバムで突出した傑作をふたつ挙げるとすれば、一般的に言って、それは「Purple Rain」(1984年) と「Sign O' The Times」(1987年) になると思いますが、「Diamonds And Pearls」は「1999」(1982年) と並び、その次あたりに位置付けられる作品だと私は思います。

プリンスは、「Purple Rain」では悩み苦しみながら生きる道を掴む一人の青年の姿を見せ、「Sign O' The Times」では自身の音楽家としての才能を惜しみなく披露し、「1999」では「プリンス」という唯一無二の存在を確立させました。

それでは、プリンスは「Diamonds And Pearls」で何を表現したのでしょうか?

私は、「Diamonds And Pearls」でプリンスが表現したのは、音楽への敬意と感謝だと思います。この作品は時代の流れを受けてヒップホップやラップを取り入れたことがよく取り沙汰されますが、それと同等かそれ以上にこの作品を強く特徴付けているのは、ソウル、ファンク、ゴスペル、ジャズといった、古く伝統的な音楽への敬意です。「Diamonds And Pearls」はある意味「Musicology」(2004年) よりも "ミュージコロジー" をやっている作品ではないかと思います。

プリンスの音楽への敬意と感謝は、この作品の歌詞にも色濃く表れています。この作品の価値は、全体的に強い肯定感に溢れる歌詞によって一層押し上げられています。一曲一曲歌詞に目を通していくと、至るところに素敵な言葉が散りばめられていることに気付くはずです。そのさまは、まさにアルバムタイトルが示す通り、沢山のダイヤモンドと真珠がキラキラと輝きを放つようです。プリンスは私たちに本物のダイヤモンドと真珠をあげられない代わりに、それよりも遥かに価値のあるものを届けてくれたのです。

私たちが生きている時代に活躍したアーティストの中で、プリンスは世界最高の人物です。それも疑問の余地もなく圧倒的に。これは断言して良いことだと私は考えています。私たちが生きている時代において世界で最も優れたアーティストが、音楽への敬意と感謝を注ぎ込んだ作品。それが「Diamonds And Pearls」です。そして、これこそが、私が「Diamonds And Pearls」を1990年代以降の音楽史における最高傑作だと考える理由です。

このアルバムと私

1991年、中学生だった私はこのアルバムからプリンスを聴くようになりました。しかし、私が最初から諸手を挙げてプリンスの音楽を受け入れたかというと、そうではありませんでした。後述しますが、当時の私はこのアルバムに深い拒絶反応を起こしたのです。

それでも私はプリンスに惹き付けられました。その理由は単純なもので、それは単にプリンスが音楽の天才だと思ったからでした。私にとって、アルバム「Diamonds And Pearls」の音楽はそれほど圧倒的でした。「Thunder」の聴いたこともないようなマルチトラックのボーカル、「Diamonds And Pearls」の不思議な曲の作り、とにかくカッコいい「Gett Off」。そして無数の魅力的なアイデアが次々と登場し、しかもそれらは大切に扱われることなくどんどん使い捨てられます。「せっかくのアイデアを次から次へとこんなに粗末に扱って、プリンスには勿体ないという概念はないのか?」と心配になるほどでした。こんな音楽を、私は聴いたことがありませんでした。

そして前述した拒絶反応です。それには二つの原因がありました。

まず一つ目の原因は、音楽性への抵抗感です。これは当時の批評家から批判された、ヒップホップやラップへの迎合のことではありません。プリンスの音楽が、それまで私が慣れ親しんでいた音楽とは全くルーツを異にしていることに対する抵抗感です。ソウル、ファンク、ゴスペル、ジャズといった、古い、そして日本には根付いていない音楽に対する敬意が溢れたこのアルバムの音楽性に、私は突き放された気持ちになりました。

それを強く感じる曲の一例に「Willing And Able」のビデオバージョンがあります。アルバムバージョンよりもライブ感が強調されたアレンジで、プリンスは素晴らしいパフォーマンスを見せます。この曲は音楽ジャンルとしては何と言ったらいいのでしょう? ゴスペル? R&B? 終盤にはラップも入ります。それにビデオバージョンでは、ラップパートに合わせてフルートが演奏されます。あたかも正統派な音楽を装っていますが、その実はかなりユニークな曲だと思います。

それはそうとして、こんな音楽やパフォーマンスを、私は日本の歌番組では見たことも聴いたこともありません。当時の私は、凄いとかどうこう以前に、あまりの世界の違いに壁を感じました。

そして二つ目の原因は、歌詞への抵抗感です。当時このアルバムを再生すると、強烈なマルチトラックボーカルと共に、私の目の前には精神を隔てる巨大な壁が現れました。その歌詞を和訳するとこうです。

それはまるで、夜通し轟き渡る雷鳴であり
朝の光の中にジーザスが現れる天啓のようだった
愛は言った - "私の手を取りなさい、心配は要りません"
"さあ、今夜あなたの魂を救うのです"

そして最終曲の「Live 4 Love」です。これは当時勃発した湾岸戦争の影響がみられる曲です。湾岸戦争は、ニュースで報道される爆撃の映像がまるでテレビゲームのようで現実感がない、ということでも話題になりましたが、とにかく、それまでの日常で私が触れてきた音楽の中に、このように戦争をリアルなものとして扱った曲はひとつもありませんでした。私は、「戦争を知らない子供たち」だって、生まれる前にこんな歌が流行ったらしい、ということしか知らない世代の人間です。

戦争が終わって僕等は生れた
戦争を知らずに僕等は育った
・・・
戦争を知らない子供たちさ

聴いたこともないような仰々しいサウンドに乗せて真剣にジーザスと歌い、リアルに戦争を歌い、「愛に生きよ」と叫ぶプリンスの音楽は、それまで私が慣れ親しんできた音楽とは全く異質なものでした。当時中学生だった私の世界とは全く別の世界で作られた音楽。私はにべもなく突き放された気分になり、大きなショックを受けました。それにまだ中学生だった私は、こういった音楽に正面から向き合うことに対して、茶化したくなるような気恥ずかしさを覚えました。

しかし、今は違います。今の私は、プリンスが心血を注いで真剣に作ったものを真面目に聴いて、いったい何が恥ずかしいのか? と思うようになりました。私は最初、私がプリンスが好きなのは、単純にプリンスが音楽の天才だからだと思っていました。プリンスの音楽は、単に音楽として聴くだけでその凄さに圧倒されました。でも段々と、それが理由の全てではなく、もっと大きな理由が別にあるのだと感じるようになりました。

先に述べたように、私はこのアルバムは1990年代以降の音楽史における最高傑作だと考えています。しかし、だからこそ万人に評価される作品ではないことも理解できます。万人に評価されるということは、真剣に向き合わずとも価値が分かる作品だということです。このアルバムは、断じてそうであってはなりません。

今、大人になった私は、4才の娘と「たんだー」や「Live 4 Love♪ Live 4 Love♪」を歌って楽しんでいます。いつの日か、娘にもこのアルバムの価値を知ってもらえることを願って。

各曲コメント

各曲の簡単なコメントです。別途ブログ記事を書いているものはリンクも添えています。

1) Thunder

アルバムのオープニングを飾るグレイトソングです。プリンス独特のぶ厚いマルチトラックのボーカルや、魔法のように次から次へと目まぐるしく湧き出てくるサウンドのアイデアに圧倒させられます。我が家では通称「たんだー」と呼んでいます。

2) Daddy Pop

「Thunder」はプリンスの一人録音で制作された曲であるため、これがこのアルバムで新結成されたプリンスのバンド The New Power Generation のお披露目曲になります。派手できらびやかなアレンジの印象が強いのですが、装飾が剥ぎ取られたデモバージョンをブートで聴くと、まるでホーンを削って低音を効かせた「Cindy C」のようでもあり、実は凄まじくグルーヴィーな曲であることが分かります。

そういえば、現代思想 2016年8月臨時増刊号に、プリンスが踊れなくなった分水嶺はちょうどこの辺りにあり、このアルバムからプリンスは踊れなくなったと主張する記事がありました。私は全くの逆で、高校時代に地元のブート屋さんで「画質悪いけど本当にいいの?」と念を押されて買った、本当に酷い画質のブートビデオでこの曲のライブパフォーマンスを観て、「プリンスってこんなに踊るのか!」と驚きました。

リンクした Arsenio Hall Show でのパフォーマンスでは、演奏終了後、観客に突進してスライディングをする、お茶目なプリンスを見ることができます。

3) Diamonds And Pearls

アルバムタイトルに相応しい名曲です。美しいメロディでスタンダードな風格を漂わせますが、拍子がコロコロ変わって不思議な感触を持つ曲です。また、スタジオバージョンは落ち着いた雰囲気ですが、ツアーで演奏されたライブバージョンでは、最後に短いながらも熱いギターソロが入る驚きの展開になります。ツアーでの情熱的なフルライブバージョンは、私にとってこの曲を特別なものにしている理由のひとつなのですが、オフィシャルで聴くことができないのが本当に勿体ないです。

また、私の一番好きなミュージックビデオはこの曲になります。

4) Cream

U are fine (Fine)
U're filthy cute and, baby, U know it
君はイかしてる
君はとびっきり魅力的で、自分でも知ってるはずさ

全米ナンバーワンヒット曲です。下地は古いアメリカ音楽といった感じがするのですが、不思議なことに今聴いても新しさを感じます。それどころか、時代を経るにつれて逆に新しさを増しているのではないか?とさえ感じます。そんな特別な力を持った曲です。

You know, I wrote this while I was looking in the mirror, right?
知ってるよね? 僕は鏡に映る自分を見ながらこの曲を書いたんだよ。

後にプリンスは弾き語りでこの曲を歌いながらこのように明かしています。

5) Strollin'

軽快でリラックスした雰囲気を持つジャジーな曲です。清涼剤のように挟まれているこの曲も、アルバムに一貫している肯定的なメッセージを際立たせるのに一役買っています。

There's so much hate goin' round
Hard 2 not let it get U down
Least we can do is make a joyful sound
世の中じゃ沢山の憎しみが蔓延っている
沈んだ気持ちにならずにいるのは大変なくらい
せめて僕らにできるのは楽しい音を作ることさ

6) Willing And Able

この曲はこのアルバムが出す処方箋の中でもなかなかの優れモノで、上手く取り入れるととても役に立ちます。具体的な用法としては、例えば布団から出るのが億劫な朝などに "I'm willing, and I'm able... I'm willing, and I'm able..." とこの曲に出てくるフレーズを心の中で呟いたりして、やる気を引き出すのに用いることができます。

7) Gett Off

突然変異で生まれた90年代の怪物です。個人的には、この曲が収録されているという一点だけをもってしても、このアルバムを歴史的名盤と呼ぶのに十分だと思います。当時、このアルバムには大きな批判や落胆の声が上がりましたが、その理由のひとつはプリンスがヒップホップを取り入れて時代に迎合したからというものでした。しかし、この曲を前にどうしてそんなことが言えたのだろうと思います。

ちなみに、この曲の途中、レコードのノイズと共に一瞬昔っぽいサウンドが入ります。当時の私にはこれが凄く奇妙に感じられました。後にこれがジェームス・ブラウンの「Mother Popcorn」を引用したものだと知り、実際に「Mother Popcorn」を聴いてみて、プリンスは何てカッコいいことをするんだと痺れました。

この曲の有名なライブパフォーマンスに1991年の MTV Video Music Awards が挙げられます。これは私が初めて観たプリンスのライブパフォーマンス映像でもあり、プリンスが放つ凄まじいオーラに私は強い衝撃を受けました。ちなみに、当時の私は、まさかプリンスが後ろがシースルーの服を着ているとは思わず、猿のお尻のようにそういう色の服なのかなあと思っていました。"Lemme show U baby I'm a talented boy" と歌いながらクルッと後ろを見せるところでの歓声もセリフと歌い方自体のインパクトが大きいですし、あからさまに後ろを見せつけるところはテレビ放送ではカットされていましたし。

8) Walk Don't Walk

まるでセサミ・ストリートなどの子供向けテレビ番組でも使えそうな愛らしい曲です。尺も短めで、ややもすると見落してしまいそうになりますが、そういう目立たない曲にこそプリンスは深い意味を込めることがあります。私はこの曲にプリンスの生き様を見ます。私にとってはとても特別な曲です。

9) Jughead

トニー・Mが主役のおふざけラップソングです。海外では、プリンスの歴代ワースト曲の話題になると様式美のように名前が挙がる曲です (検索結果)。しかしそれは不当な評価というもので、ラップに惑わされずに音楽部分に耳を傾けると、これは凄まじくクールでファンキーな曲であることが分かります。音楽部分だけを取り出してこれに対抗できるファンキーさを持つ曲を探すとしたら、1987年の「Housequake」まで遡らなければいけないのではないか、と思わせるほど音楽そのものはファンキーです。実際、他の音と重なって明確に判別できないのですが、コーラスでは「Housequake」のリズムを声でやっているように聴こえます (笑)。

ばっ・・ばっばばばっ・・ばっ・・ばっ・ばっ・・

これが本当にバカらしくて・・・もう最高です。

それに曲の始まりのロージーのハミングと、トニーの "What the hell was that?" も絶妙です。

曲の演奏が終わると、「トニー、素晴らしかったよ」と男が言い寄ってきて、トニーにマネージャー契約を持ち掛けます。そこから男とトニーとの間で口論が始まりますが、トニーが一方的にまくし立てるので遂に男は痺れを切らします。男はトニーに「ピシッ!」と思いっ切り平手打ちをかまし、トニーの悶絶の声で曲は終わります (笑)。

10) Money Don't Matter 2 Night

前曲の平手打ちエンディングから絶妙なタイミングで始まる曲です。これで思い出すのが、プリンスが2015年のグラミー最優秀アルバム賞で行った有名なスピーチです。このスピーチで、プリンスはブラック・ライヴス・マター運動と絡めて次のように言いました。

Albums, remember thsoe? Albums still matter. Like books and black lives, albums still matter.
アルバムって覚えてる? アルバムは今でも大切だ。本や黒人の命と同じように、アルバムは今でも大切だよ。

この絶妙な曲の繋ぎはアルバムを聴くことで初めて気付く仕掛けであり、まさにこのスピーチが真実であることを証明するものだと思います。個人的にはアルバムのハイライトのひとつです。いや、真面目な話、この曲の繋ぎ方って本当に凄いと思いませんか?

前曲で平手打ちされたトニー・Mは廊下で反省中なのでしょうか。この曲には登場しません。前曲とはうって変わってシリアスな曲で、ファンの間では評価が高い曲だと思います。

11) Push

プリンスにクレア・フィッシャーが加わったとくれば、これはもう素晴らしい曲に決まってる、はずなのですが、なぜかイマイチ乗り切れない気もする勿体ない曲です。思うのですが、NPG ではなくレボリューション時代にこの曲が作られていたとしたら、最低でも「Mountains」レベルかそれ以上の曲としてファンに愛される曲になったのではないか、という気がします。クレア・フィッシャーのストリングアレンジは冴えているし、この曲にはそれだけのポテンシャルを感じます。

それはそうとして、廊下で反省中だったトニー・Mがこの曲では戻ってきます。トニー・Mがコーラスで念を押すようにいちいち "I push"、"I push" と繰り返すのがウザくて面白いのですが、レボリューション時代にはなかったこういう野暮ったさが乗り切れなさの一因かもしれない、という気もします。また、この野暮ったさはアルバム全体にも感じます。それが上手くハマっている場合もあるのですが、アルバムにケチを付けることがあるとすれば、そのひとつは野暮ったさだと思います。

ちなみに、"テレビゲーム" が和製英語で、英語では "video game" と言うのだと私はこの曲で覚えました。

Maybe the cartridge U was playing don't fit in your video game
たぶん君が遊んでいたカセットは君のテレビゲームに合ってなかったんだね

12) Insatiable

私がアルバムの中で最も好きな曲を選ぶなら、それはこの曲か「Diamonds And Pearls」のどちらかになります。プリンスの全作品の中で、最も親密さを感じさせる曲のひとつです。

13) Live 4 Love

アルバムの最終曲です。私にとっては、スーパーの2階に行くと感じたり、修羅の国を感じたり、最後にトニー・Mが天使になってアルバムが終わる展開にジーンときたり・・・色々な思いが交錯して上手く感想が書けない曲です。あと、この曲のタイトルに、私は心から感動します。

さらに・・・そしておわりに

1990年代前半は、プリンスが凄まじい創作力を発揮した時期でもあり、このアルバムはその序章とも言える作品です。その創作力の一端を垣間見ることができる例として、プリンスは「Gett Off」と「Cream」の両曲から派生させて、様々なリミックスやアイデアを拡張させた楽曲をリリースしています。ここで「Gangster Glam」あたりの YouTube リンクを付けて、キュートな水着を着てプールサイドで腕立て伏せをするプリンスを楽しんでもらおうかとも思ったのですが、既に記事が大変長くなっているのでやめておきます。また、アルバムの制作途中では構成に含まれていたものの、結局未発表となった曲のひとつに、「Schoolyard」という興味深い曲があります。

「Diamonds And Pearls」というアルバムは、きちんと正面から向き合って聴くことでより深く楽しむことができる作品です。過去、このアルバムは多くの批判に晒され、それが少なからず個人の評価にも影響を及ぼしました。しかし、今やこの作品もリリースから27年が経ちました。もうこの作品を本当の自分自身の感性で聴き直しても良いのではないかと思います。

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