OneH

主にトレーニングとダイエットのブログ。それとプリンス。

2006年のアルバム「3121」からもう一つ、「Beautiful, Loved And Blessed」を取り上げます。この曲は、アルバムの中でプリンスがサポートに回る唯一の曲で、リードボーカルを主に歌うのは女性シンガーのテイマーです。

プリンスには、後になってから意味に気付くような曲や、後になってからより深い意味が与えられる曲が沢山ありますが、これもその一つだと思います。この曲の第2ヴァースには次の歌詞があり、このパートはテイマーではなくプリンスが歌います。プリンスが自ら書く予定でいたという自伝、実際に取り掛かっていて、50ページほど書き進めていたという話をどこかで読んだような気がしますが、この曲の美しさに触れるにつけ、ついつい感傷的な気分になります。

If I were 2 ever write down my life story
I could truly say with all the fame and glory
I was just a piece of clay in need of the potter's hand
もしも私が自伝を書くことがあれば
大いなる名誉と栄光の下に心から言うだろう
私は陶芸家の手を必要とする、ただの一塊の粘土だったと

それはそうとして、今この曲を単体で聴いて初めて知ったという方は、これはとても良い曲だと思うのではないでしょうか。メロディーはキャッチーだし、歌詞も美しいし、一聴しての印象はかなり良いのではないかと思います。

しかし個人的には、この曲に対しては素晴らしく美しいと思う反面、何とも煮え切らない気持ちがあります。何かこう、何と言ったら良いのか…。その煮え切らない思いを、歯に衣を着せずにズバッと言ってしまっているポッドキャストがあるので紹介します。このブログで何度か紹介している Peach & Black のレビューです。このレビューでは、この曲はアルバムの最低曲ということで全員意見が一致して、延々と愚痴が続きます。1:39:20頃からの最後のまとめ部分だけ取り出して、雰囲気で適当に訳しました。文字にすると結構キツいかもしれませんが、実際聴くと面白いです。

MC: 続く10曲目は「Beautiful, Loved And Blessed」。この曲は…

〜全員ひたすら延々とこの曲に関する愚痴 (笑)。省略〜

Toejam: テイマーの声は悪くないと思うよ。でも、最近プリンスと一緒にやっている、シェルビーやマーヴァ・キングといったシンガーを思うと、個人的に、ボーカルに個性のないテイマーは、3人の中では間違いなく一番下の順位になるね。

Captain: だからテイマーのアルバムはお蔵入りになったのかもね。

MC: あのーちょっといいかな? この曲については言い訳しか出てきてないような気がするんだけど。かれこれ10分くらい、話しているのはそればっかりになってるよ。

Captain: まあこれは口ずさむのに良いね。明るくて… だけど大した曲じゃないよね。

MC: みんな、そろそろまとめに入りたいんだけど、いいかな?

All: いいよ。

MC: この曲は、とても平凡。それなりなビート、それなりにファンキーなアウトロ。ファンキーっていうのは… だってプリンスだからね。

Captain: この曲のレベルに合った程度のファンキー具合ね。

MC: そうだね。とにかく凡庸。プリンス・ロジャース・ネルソンというアーティストの全作品を見渡しても、僕にとって、これは商業リリースされたプリンスの全曲の中で、最低の10曲に入ると思う。それがこの曲に対する僕の気持ち。それほどこの曲は凡庸だってこと。この曲に悪い所や酷い所は一切ないよ。だけど所詮は平凡な R&B 曲なんだよね。
そんな曲がプリンスというアーティストの「3121」という標準レベルを遥かに越えたアルバムの中に入っているものだから、場違いなんだよ。ここに居場所を与えられるべきではなかった。取り除いてくれよ。この曲は一体ここで何をしているつもりなんだろうね。

Toejam: 広告スペース。

MC: 第一に言っておきたいんだけど、僕はこのアルバムがすごく好きなんだ。それで、9曲目の「The Word」が終わった後、あの "目を覚まして" という囁きやエレクトリックドラムが聴こえると、ガッカリ感で、ただ溜め息が出るんだ。

Toejam: "眠りに戻って! 眠りに戻って!"

MC: はは (笑)。口汚ない言葉を使うけど、"オー、シット" だよ。プリンスったら、またしてもやらかしちゃったんだよね。全てがとても上手く行ってたのに。でもどうしても我慢できなかったんだよね。ねえプリンスさん。どうしてもこういうのを入れてしまうんだ。

Captain: 無料広告。無料広告スペース。

MC: 生のポッドキャストなのにこんな言葉遣いで悪いんだけど、とにかく気分を害するね (it just pisses me off)。

(一同笑い)

MC: ちょっと憤慨して興奮してきたんだけど、でも本当おかしいよ。この曲には良い所も素晴らしい所もなくって、でも酷い所もない。それで、素晴らしい所も酷い所もない平凡な曲なのに、何でこういう R&B 曲をアルバムに入れちゃうんだろう。アルバムから外しておけば良いのに。あんまりキツいことは言いたくないからこの辺にしておくけど。

Playa: これって何だか分かる? 「3121」における、テヴィン・キャンベルの「Round & Round」だよね。

(一同笑い)

Captain: 僕はその曲好きだよ。

MC: それは… 理由には深入りしないでおこうか。

Playa: 正直、あれがこの曲とどう違うっていうんだろう。それ自体は良い曲だけど。

MC: 何が違うっていうと、こうだよね。一方のアルバムは…

Toejam: (つまらない曲が) いっぱい。

MC: そう、(「Graffiti Bridge」は)、つまらない曲が沢山入っている。でも「3121」は、個性的な曲が並ぶのでシームレスという感じではないんだけど、それぞれの曲が互いに結び付き合っていて、アルバムとしてとても優れた流れが出来ている。後半、スピードが乗ってきてギアをトップに入れて、最高な気分でいるところに、道路の前にでっかい障害物を置かれた状況。だから… ああ、フラストレーションが溜まる。

Playa: その障害物はよけて通れる?

MC: 出来るよ。それはスキップって言うんだ。それではスキップボタンを押して、次の11曲目「The Dance」に行こう。この曲の話はもう終わり。

私自身は、「Beautiful, Loved And Blessed」をここまで酷くは思っていません (笑)。個人的には、凡庸さを遥かに上回る美しさを持った曲だと思います。

ここで広告スペースと揶揄されている理由は、この曲は、当初はアルバム収録予定のリストに入っておらず、半ばテイマーのデビューアルバムのプロモーション目的で収録されたという側面を持っているためです。しかし、テイマーのデビューアルバムは正式なリリースがされぬまま、プロジェクト自体が消えてしまい、何とも中途半端な結末を迎えます。

それにしても、"「Beautiful, Loved And Blessed」は「3121」 の「Round & Round」" という喩えは絶妙だと思います。アルバムの価値を高めるのにあまり貢献していないどころか、見方によってはアルバムの評価を落としているとさえ思えるのに、どちらも楽曲そのものは素敵だし、ボーカルもとても秀逸です。プリンスのアルバムにさえ入っていなかったら、こんな言われようはされなかったのに、と思います (笑)。


プリンスの作品は、ファンの間であっても、絶賛と酷評で意見が真っ二つに割れることがままあります。私の場合、アルバム「3121」自体にそれほど強い思い入れがないためか、多少の複雑な気持ちはあれど、「Beautiful, Loved And Blessed」は素晴らしく美しい曲だと思います。皆さんはどう思うのでしょうか…?


Wake up
U're beautiful, loved and blessed
U feel me? (Think I don't?)
目を覚まして
あなたは美しく、愛され、祝福されている
感じる?

When U found me, I was just a piece of clay
I was formless, U gave me a new name
With the breath of life I now live abundantly
All I needed was the potter's hand
And the blood on Calvary (That's right)
あなたが私を見つけた時、私はただの一塊の粘土でしかなかった
形を持たなかった私に、あなたは新たな名前を与えてくれた
私は生命の息吹を得て、いま大いに生きている
私に必要だったのは陶芸家の手と
カルバリの血

But 2 much power (Tell it)
Can sometimes turn 2 shame
2 much desire
Sometimes make U feel the same (Come on)
But 4giveness is how U win the game
I begged 4 truth, now I know the truth
And that is when U came and said I was...
大きすぎる力は時に汚辱に変わり
大きすぎる欲望もまた時に同様になる
しかし許しこそがゲームに勝つ方法
私は真実を懇願し、真実を知った
それはあなたが現れ私にこう言ってくれた時 - 私は…

Chorus:
Beautiful, loved and blessed
I'm better than the day b4
Cuz U made me confess that I am...
Beautiful, loved and blessed
When U're free U're really free indeed
All U gotta do is just plant the seed
美しく、愛され、祝福されている
私は前の日よりも良き人間になった
なぜならあなたは私に告白を促したから - 私は…
美しく、愛され、祝福されている
自由であるとは真に自由なことであり
そしてすべきは種をまくこと

A constant battle 2 stay ahead of the game (Stay ahead of the game)
Is anybody famous when everybody wants fame?
Always trying 2 break U down
Thinkin' that it'll raise 'em up
I just wanna be happy
Come take this bitter cup from me
ゲームで出し抜くための絶え間ない争い
全ての人が名声を欲しがるならば、誰がそれを得ようか?
奮い立たせようと思いながら裏腹に
常に挫けさせようとする
私はただ幸せでいたいだけ
さあ私からこの苦杯を取って

If I were 2 ever write down my life story
I could truly say (truly say) with all the fame and glory
I was just a piece of clay in need of the potter's hand
Cause when U whispered in my ear
The words I so now understand, oh...
もしも私が自伝を書くことがあれば
大いなる名誉と栄光の下に心から言うだろう
私は陶芸家の手を必要とする、ただの一塊の粘土だったと
なぜならあなたが私の耳に囁いた言葉を
私はいまこそ強く理解したから

Chorus:
Beautiful, loved and blessed
I'm better than the day b4
Cuz U made me confess that I am...
Beautiful, loved and blessed
When U're free U're really free indeed
All U gotta do is just plant the seed
美しく、愛され、祝福されている
私は前の日よりも良き人間になった
なぜならあなたは私に告白を促したから - 私は…
美しく、愛され、祝福されている
自由であることは真に自由なことであり
そしてすべきは種をまくこと

Everything U made U said, "That's good"
B4 the fall of man U said, "That's good"
Every time I walk in faith, that's good
U let me see another day, that's good
B4 the earth was made U said, "Tamar,
I will lead the way and U'll go far"
Knowledge and understanding
Understanding is good
And when I wake up in the morning
All I hear in my hood
Is people saying that they're...
あなたが作ったもの全てに言った - "それで良い"
アダムとイヴの堕落を前にあなたは言った - "それで良い"
私が信心のもとに歩く時 - それで良い
あなたのお陰で私は明くる日を迎えられる - それで良い
地球がつくられる前にあなたは言った
"テイマー、私が先導し道を遥か彼方へと導こう"
知識と理解 - 理解は良きもの
朝目覚める時、私の周りに聴こえるのは人々の上げる声 - 彼らは…

Beautiful, loved and blessed (Beautiful)
Will U rescue me from the darkness?
And now I just must confess that I am...
Beautiful, loved and blessed
When U're free, U're free indeed
All U gotta do is just plant the seed
美しく、愛され、祝福されている
私をこの暗闇から救ってくれる?
そして私は告白をする - 私は…
美しく、愛され、祝福されている
自由であることは真に自由なことであり
そしてすべきは種をまくこと

Hey, hey, hey
Wake up it's a new day
Hey, hey, hey (That's right)
Wave your hands in the air and say
Hey, hey, hey
Wake up it's a new day (New day, y'all)
Hey, hey, hey
Wave your hands in the air and say
目を覚まして、新しい日がきたわ
手を高く振って声を上げて
目を覚まして、新しい日がきたわ
手を高く振って声を上げて

Beautiful, loved and blessed (Beautiful)
U rescued me from the darkness in the wilderness
That's why I am beautiful (beautiful), loved and blessed (blessed)
No matter what the challenge
I'll always pass the test
That's what I am
美しく、愛され、祝福されている
あなたはこの荒廃した暗闇から私を救ってくれた
だから私は、美しく、愛され、祝福されている
どんな試練であろうとも
私はそれをくぐり抜ける
それが私

Beautiful, that's what I am {x2}
I don't mean 2 put nobody down
Still I must confess that I am...
Beautiful, that's what I am
That's what I am
美しい、それが私
誰かを悪く言うつもりはなく
確かに私は告白する、私は…
美しい、それが私
それが私

When U wanna give up, don't cuz U know
U always got a friend
挫けそうな時も負けないで
あなたには常に友がいるのだから

That's what I am, that's what I am, That's what I am
Beautiful, beautiful
That's what I am, that's what I am, That's what I am
Beautiful, beautiful
Oh yeah (Oh yeah)
それが私、それが私、それが私
美しい、美しい
それが私、それが私、それが私
美しい、美しい

「Get On The Boat」は2006年のアルバム「3121」のラストを飾る、アップリフティングでファンキーな曲です。ノアの箱舟を連想させるような歌詞です。

この曲といえば、2007年2月1日、第41回スーパーボウルのハーフタイムショウに先立って行われたプレスカンファレンスです。というか、このプレスカンファレンスがこの曲を取り上げた理由です。

ここでステージに登場したプリンスは、意外な提案をします。

Contrary to rumor, I'd like to take a few questions right now.
うわさに反して、ただ今ここで質問を受け付けたいと思います。

これを受けて、プレス席の男性記者が質問をしようと試みますが、質問の最中に、プリンスはそれを無視して出し抜けに演奏を始めてしまいます (笑)

ちなみに、この動画は編集されたものであり、実際にこの直後に演奏されるのは、チャック・ベリーの「Johnny B Goode」というスタンダードロックンロールナンバーです。その後「Anotherloverholenyohead」をやって、最後に「Get On The Boat」で締めるという流れです。検索すると、フルパフォーマンスの動画も YouTube に見つかります。


Look outside your window, tell me now what U see?
Comin' up the mountain 4 a new philosophy
Every single color, every race and every creed
Lookin' 4 the truth y'all, that's gonna set somebody free
窓の外を見てみなよ、何が見えるかい?
新しい哲学をもたらす山さ
あらゆる色や人種、あらゆる教義が
人を自由に解き放つ真実を探し求めている

Chorus:
Get on the boat, get on the boat, people
Get on the boat now, we got room 4 a hundred more
Get on the boat, get on the boat, people
Get on the boat now, we got room 4 a hundred more
舟に乗り込んで、舟に乗り込んで
舟に乗り込んで、まだ100人は乗れるさ
舟に乗り込んで、舟に乗り込んで
舟に乗り込んで、まだ100人は乗れるさ

All across the nation, people doin' what they can
2 avoid the tribulation that will be great throughout the land
(Everything) Everything in darkness must come out in2 the light
(That's right)
Until we love each other, it's the only way it's gonna be right (Hey!)
大陸に降り掛かる大いなる患難を逃れようと
国中の至る所で人々ができることをしている
暗闇にあるものは全て光の下に晒されなければならない
僕らが互いに愛し合えるまで、それが唯一の正しい道

Chorus
(Oh yeah)
Good God!

Say it again!

Bridge
We were meant 2 live 2gether underneath the sun
I can't think of nothing better
Don't U wanna come?
Get on the boat
僕らは太陽の下で共に生きるべくして生まれてきた
これ以上良いものなんて考え付かない
一緒においでよ
舟に乗り込もう

Never mind what time it is, the party just begun
No te alejes de esto momento de inspiracion
{U do not move away from this moment of inspiration}
U can let your hair down, let the music move your feet
Panamama bring the drama, dancin' 2 the beat
Maceo!
今が何時かなんて気にしない、パーティは始まったばかり
このインスピレーションの瞬間から抜け出そうとしないて
気を楽にして、足の動きを音楽に任せて
パナマ娘、ドラマを起こして、ビートに乗せて踊って
メイシオ!

What's the harm in listenin' 2 the hopeful words we say?
If it moves your heart then U better get in without delay
Get on the boat, get on the boat people
Get on the boat now, we got room 4 a hundred more
僕らの発する希望の言葉に耳を傾けて何が問題なんだい?
それが君のハートを揺さぶるのなら、モタモタしてちゃダメさ
舟に乗り込んで、舟に乗り込んで
舟に乗り込んで、まだ100人は乗れるさ

Dance 2 the beat, row, Ray, Ray
Lead line, horns, hit me now!
ビートに乗せて踊って、漕いで、レイ
リードライン、ホーン、さあ鳴らして!

Chorus

We were meant 2 live 2gether underneath the sun
I can't think of nothin' better
Don't U wanna come?
Get on the boat
僕らは太陽の下で共に生きるべくして生まれてきた
これ以上良いものなんて考え付かない
一緒においでよ
舟に乗り込もう

Oh yeah!

Get on the boat (Get on)
Get on the boat people (Come on, come on)
Get on the boat now, oh
We got room 4 a hundred more
Get on the boat (Every color)
Get on the boat people (Every creed)
Get on the boat now (Come on, come on)
We got room 4 a hundred more (Come with me)

Chorus

Hah!

Work on it!
Lead line, lead line
Can't stand it
Keep it going, keep it going
(Y'all get on the boat, come on)
(Get on the boat, come on)

今回は、私がプリンスの新作を追うのをやめた話をします。あまりワクワク感のない、少し気難しい話になるかもしれません。ついでにベックやディアンジェロなど、プリンスとの比較でよく名前が挙がるアーティストに対し、私が個人的に思うことを少し書きます。

私がプリンスに惹かれた理由

私は、2006年のアルバム「3121」でプリンスの新作を追うのをやめています。日本にいながらプリンスをずっと聴き続けるというのは、情報の得づらさ、まともな評論家の不在、それに作品のディストリビューションの問題など、様々な要因で大変なことなので、多くのファンが大体どこかでこのような状況を経験していると思います。私にそれが起きたのは、「3121」というタイミングでした。「3121」の話をする前に、元々私がなぜプリンスを聴き続けていたかについて、少し触れておきます。

元々私がプリンスに惹きつけられ、プリンスの音楽を聴いてきた大きな理由は、プリンスのつくる音楽に、"他の音楽には決して存在しない特別なもの" を感じたからです。

断っておくと、これはスターやアイドルに熱狂するのとは違うものです。また、ある意味でプリンスは、日本におけるウエイトトレーニングに似ており、多くの人にとって、ネガティブなイメージや間違った情報が植え付けられた状態がスタートラインになります。その反動のためか、プリンスに対して何か言及すると、何でも "プリンス愛" という言葉で片付けられてしまいがちです。しかし、私がここで言っているのは、"プリンス愛" とは全く違うものです。

この感覚を表現する適切な言葉は思い付かないのですが、これが "プリンス愛" とは違うことをはっきりさせるため、とりあえず、"おそろしさ" とでも言っておきます。この言葉は三島由紀夫の「文弱の徒」というエッセイから借りたものです。そのエッセイでは、一流と二流の文学の違いについて、次のような面白い洞察がなされています。

一人の人間をより高い精神に向って鼓舞するようにつくられていて、希望や気力、慰めを与えてくれる文学。三島は、世に溢れるこういった文学は二流品であると断定します。それに対して一流の文学とは如何なるものかというと、それは、おそろしく、危険なものであると語ります。一番おそろしい崖っぷちへ連れていってくれて、そこで置きざりにしてくれるのが「良い文学」である、と言います。しかも、それは、お化け屋敷の見せもののように、人をおどかすおそろしいトリックを使うのではなく、世にも美しい文章や、心をとろかすような魅惑に満ちた描写を通して、人を断崖絶壁へと導くのです。

プリンスの音楽は文学ではないので、この主張をそのまま重ね合わせるのは適切ではないのでしょうが、少なくともはっきり言えるのは、私がプリンスに惹かれた一番の理由は、"プリンス愛" とは全く違うものである、ということです。また、この感覚は、「この作品を聴けば分かる」というものではなく、プリンスという一人のアーティストについてより多くのことを知り、様々な知識や体験を積み重ねることにより作り上げられるものです。そして、これと同じ感覚は、他のアーティストからは決して得ることができません。たとえそれがどんなに素晴らしい歌唱や演奏であっても、どんなに素晴らしい楽曲であっても、です。

また、そもそもの話として、プリンスの音楽には、楽曲そのものに他のアーティストにはない特別な特徴があります。これについては別の機会に書くことにします。

そして「3121」でそれが消えた話

話を「3121」に戻します。音楽作品としての鋭さという点では、「3121」は2000年代の作品の中でも出色の出来です。これが優れた作品であることに間違いはありません。

しかし当時、私は徐々にプリンスの作品から "おそろしさ" が薄れてきていると感じていました。それまでもその傾向は感じていましたが、このアルバムはその決定打となりました。「3121」という作品に、私は全く "おそろしさ" を感じることがなかったのです。確かに「3121」は、音楽そのものは冴え渡っています。しかし、あくまで音楽作品の枠に収まっており、プリンスの作品には通常あるはずの、音楽というジャンルを越えた何かが欠落していると感じました。

この印象は、2004年の「Musicology」以降のプリンスの変化をもっと知っていれば、大きく変わったものと思います。例えば、円熟味を増したライブパフォーマンスなどを知っていれば、「これがプリンスが選択し、辿った道なのだ」ということをもっと感じ取ることができただろうと思います。そういえば前回の記事で、後期のプリンスの音楽が軽く薄いものに変化したことについて、「軽さ=優しさ」のように感じられる、と内部コメントをくださった方がいました。私も同じように感じます。今になって、全体のキャリアを俯瞰したうえで後期のプリンスを聴くと、その "軽さ" が何とも言えない感動を呼び起こします。

しかし2006年当時、プリンスが何をしているかもよく知らないまま、遠く離れた日本でアルバムだけを聴いていた私は、この作品を最後にプリンスの新作から離れることになりました。後に2007年のアルバム「Planet Earth」からの「Chelsea Rogers」や「The One U Wanna C」がゴールドジムでのトレーニング中に流れることがありましたが、やはりそこに "おそろしさ" はありませんでした。

また、これとは別に、「3121」にはもうひとつ困ったことがありました。当時の私は音楽を主に車の中で聴くようになっていたのですが、「3121」のサウンドは私の車のステレオとは相性が悪く、サウンドがシャープすぎて耳障りがする曲が多かったのです。悪いのはプリンスではなく私の音楽再生環境なのですが、例えば「3121」、「Lolita」、「Black Sweat」、「Love」、「Fury」などは特に不快に聴こえてしまい、プリンスに興味のない人が同乗するときは流せないので、それで聴くのを控えるようになったのも影響しています。

ちなみに、当時こういった耳障りの問題を感じず、曲自体も好きだったのは「The Word」です。ただ、曲は紛れもなくプリンスのものなのに、なぜかあっさりした曲に聴こえ、まるでプリンスでない何か別の音楽を聴いているような不思議な感じがしました。また、「The Word」の歌詞は思わせぶりで注意を惹くのですが、エホバのせいなのか何なのか、個人的にはなぜか響いてきません。

Who's gonna save us when them spiders get next 2 U?
Spinning their sticky webs around what U do?
(We gotta) safeguard against forked tongue and the treachery of the wicked 1
Get up, come on let's do something
あの蜘蛛たちが迫ってきた時に誰が僕らを救ってくれるのか?
粘る糸で巣を張り巡らし君の行いの邪魔をする
偽りの言葉と邪悪な者の裏切りから身を護らねばならない
さあ立ち上がり、何かを始めよう

ちなみに、"Get up, come on let's do something" と繰り返されるこの曲で私が思うのは、「お父さんは心配症」の次のコマです。

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ベック、ディアンジェロとプリンス

世の中には、ベックやディアンジェロなど、プリンスの影響を受けている、と言われるアーティストもいます。そういった人達ではプリンスの替わりにならないのか? という疑問が湧くと思います。結論としては「プリンスの替わりなど誰もいない」となりますが、個別の記事に書きたいと思うような話ではないし、ちょうど「3121」も少し関係する (?) ので、ここに少し書いておきます。

Amazon.com の「3121」のページに、傑作な作品紹介があるのをご存知でしょうか。

Prince is the black Beck.
プリンスは黒いベックだ。

凄い破壊力で思わずコーヒーを吹き出しそうになります。ちなみに、ベックはプリンスよりも12歳若い1970年生まれで、デビューもプリンスの15年あとの1993年であり、後進世代のアーティストです。

私の場合、ベックといえば、プリンスが1999年に「Rave Un2 The Joy Fantastic」をリリースしたときのことを思い出します。リリース当時、「Rave」はファンの間で大不評で、当時あったプリンスのファン掲示板は失望の書き込み一色になったように記憶しています。そんな中、今やプリンスは終わった、同時期にリリースされたベックの「Midnite Vultures」の方がプリンスよりもずっと凄い、という話が盛り上がりました。

あまりのベタ褒めされように、私もベックに興味を持ち、「Midnite Vultures」を買ってみました。そして実際に聴いてみて、なるほど「Rave」よりもずっと凄い、と言いたくなる気持ちは私にも分かりました。しかし同時に、これはプリンスとは全然違うとも感じました。ちなみに、このアルバムには、よくプリンスの「Adore」のオマージュと呼ばれる「Debra」という曲があります。個人的には、「これってプリンスとは全然違うじゃないか」と思います。

違うアルバムの曲ですが、ベックには、"I ain't got no soul! / I ain't got no soul! / No no no no!" と叫ぶ、プリンスだったら絶対に書かないような曲があったりします。私の感覚では、そもそもプリンスとベックは根本的なところで全く立ち位置が違うアーティストです。両者の良さはそれぞれ違います。

また、ディアンジェロの「Untitled (How Does It Feel)」もプリンスのバラードのオマージュとしてよく名前が挙がる曲だと思います。個人的には、これも「プリンスとは全然違うじゃないか」と思います。これはプリンスと比較してしまうと誰でもそうなってしまうので仕方がないのですが、ディアンジェロは行っていることの幅が狭すぎると感じます。ただ、それが独特の雰囲気に繋がっていて、それがこの人の良さでもあると思います。なのでプリンスと比較さえしなければ良いのですが、いざ比較をしてしまうと、どうしても能力の幅の狭さを雰囲気で誤魔化しているアーティスト、という印象になってしまいます。プリンスの場合、漫然と聴くとシンプルで何も特別なことは行っていないように感じられる曲でも、注意深く聴くととんでもなく色々なことをやっていたりします。

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